ども、チャンチャンコばかり着ていた岡田達也です。
大学3年生になったとき
僕と
やんちき（鳥取出身、僕と同じ高校）
ともあつくん（福岡出身）
の3人は『太子荘』を出て
芸大の入口近くにある『アートマンション』という
新築のオシャレなマンションに引っ越すことにした。
家賃は一気に33,000円まで跳ね上がった。
だが……
新築で
鉄筋コンクリートで
ワンルームで
12畳分の広さがあり
フローリングで
真っ白な壁で
大家さんがとても優しいというのは
とても魅力的で
（僕たちが初めての入居者だったので、印象が深いらしく、大家さんとは今でもお付き合いがある）
それまでの
今すぐ壊れてしまいそうな
築40年以上の
木造の
囚人のたまり場のような
どういうわけか部屋の真ん中に柱が立っており
各部屋の壁が緑や、水色や、ピンクに塗られている
サイケデリックな部屋から逃れられるのなら
家賃15,000円の値上がりも苦ではなかった。
ただ1人
なばえちゃんを除いて……
なばえちゃんは、
家賃を滞納した。
していた。
してしまっていた。
だから『太子荘』から出られなかった。
本当の囚人だった。
当時はどこの寮にも必ずいたのだ。
滞納男が。
そんななばえちゃんを残して
僕らは新築の『アートマンション』に移った。
＊
ここまで書いておいてなんだが……
この話は、今日の話題にほとんど必要がないことに気付いた。
これでは
「なばえちゃんが家賃を滞納したていた」
という事実しか、みなさんの記憶に残らないのではないか？
という心配がある。
どうか、今までの話は忘れてほしい。
（……じゃ書くなよな）
＊
そのアートマンションに引っ越してきて1年と半年が過ぎた頃。
子犬が2匹、住み着いた。
おそらく雑種だったと思う。
母親の姿がどこにも見えない
これは世話してあげないと死んじゃうんじゃないか？
僕らは意を決して大家さんに相談した。
元・保母さんだった大家さんは誰よりも優しかった。
「もちろんいいわよ！ みんなでお世話しましょ！」
と言ってくれた。
そしてすぐに段ボール箱を用意してくれて
毛布まで準備してくれて
餌用のお皿まで用意してくれた。
僕たちは大家さんの心遣いに感謝し
みんなで世話することにした。
問題は名前だった。
子犬は2匹ともメスだった。
誰かが言った。
「名前、何にする？」
「メスが2匹だろ？」
「うん……」
「ってことはーー」
僕はダメ元で口を開いた。
「翔子と早智子でどうだ？」
当時、人気絶頂だった『Wink』の二人の名前だ。
僕は『Wink』のファンではなかったが
時代は平成元年なのだ。
「ミー」と「ケイ」（※１）では古すぎるだろうし
「マキ」と「ジャッキー」（※２）ならなおさらだ。
僕は怒られるかと思った。
だが……
「そうだな」
「今、翔子と早智子以外には考えられんな」
「時代はWinkだもんな」
「時代はWinkだな」
「それしかないな」
「それしかないぞ」
「悲しい熱帯魚だな」
「悲しいな」
即決した。
＊
その後、どれほど翔子と早智子を可愛がったことだろう。
リードも首輪も付けなかったけど
僕が近所に買い物に行くときは、後ろをチョコチョコと付いてくるのだ。
僕が小さい溝を渡ったあと
後ろを振り返ると
恐る恐る飛ぼうとする翔子がいて
その姿を見ながら
「あぁ、買い物なんてどうでもいいや」
という気持ちになり
僕はしゃがんで、翔子が来るのをずっと待っていた。
僕は、それの時間が、楽しくて楽しくてしょうがなかった。
卒業までの半年
僕たちは本当に可愛がった。
その後は後輩にすべてを託し、僕らは別れた。
今でも思う。
もしも
女の子のワンちゃんを2匹飼うとするなら
「翔子」と「早智子」と名付けるだろう。
どんなに時代遅れだと言われようと。
翔子と筆者。
筆者がいかにダメなだが学生だったかは、姿を見てもらえればわかると思う。
では、また。
※１ もちろんピンクレディーの2人です
※２ もちろんビューティ・ペアの2人です
追伸
本日より、東京に移動します。
ネット環境により、1～2日、日記をお休みするかもしれません。
今はお約束ができなくてごめんなさい。