ども、眠れなくなりそうな岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき。

 

 *

 

母・秀子さんが僕に譲ってくれた立派な羽毛布団。

 

僕の金銭感覚では「絶対に買うことのない」高価なものだ。

「母上! そりゃ詐欺でござる! すぐに返品されよ!」

と言いそうになったのも本当だ。

 

だが。

使ってみるとさすがにその良さがわかった。

とにかく冬場の温かさは素晴らしく

一度その布団で寝てしまうと、他では物足りなくなる。

 

だから。

ずっと使っていた。

大切に使わせてもらっていた。

 

だけど

長年の使用でさすがにシルクの部分が傷んで裂けてきて羽毛がこぼれ始めた。

掛け布団カバーを付けているからなんとかなってたけど

このままではどんどん羽毛が出てきてしまう。

 

僕はネットで羽毛布団のリフォームを調べてみた。

 

羽毛を洗い直し

外側のカバーを新しくするとーー

 

た、た、

たけぇな……

 

リフォームどころか

新しい布団が買えるだろ?

 

う~ん

どうしたものか?

 

頑張ってリフォームすべきか?

それとも処分して新しいのを買うべきか?

 

僕は天袋に布団をしまったまま悩んでいた。

 

 *

 

一昨日。

 

玄関のチャイムが鳴った。

布団のリフォーム業者さんだった。

 

「何かお困りのことはないですか?」

 

あ……

ちょっと聞いてみようかな

 

ネットで調べて目が飛び出そうになったけど

もしかしたら安くすむかもしれないしーー

 

僕は布団を引っ張り出してきた。

 

布団を見た業者さんが言った。

 

「……こ、これは!?」

 

「なんでしょう?」

 

「ずいぶん立派な布団をお持ちなんですね」

 

「そうみたいですね。亡くなった母から譲ってもらったんです」

 

「そうですか……」

そう言って業者さんは険しい顔になった。

 

僕は尋ねた。

「どうしました?」

 

「これねーー」

 

「?」

 

「大切にされたほうが良いですよ」

 

え?

そんなちょっと見て触っただけで何かがわかるの?
 

「間違いありません」

 

ハハァン

なるほどね

 

そうやって「良いものです」って印象を与えて

なんとかリフォームまで持っていこうという魂胆だな……

 

ミエミエですよ

残念ですがその手には乗りませんよ

 

「これねーー」

 

「なんでしょう?」

 

「間違いなく一生モノです」

 

「母もそう言ってました」

 

「おそらく当時のお値段で40万はくだらないでしょう」

 

ええっ?

わ、わ、わかるんですか???

 

「ダウンの素材、量、シルクのカバー、この刺繍……。これは丸八さんの中でも最高ランクですよ」

 

「は、はぁ」

 

「これを貰ったんですよね?」

 

「えぇ」

 

「大切にされたほうがよろしいですよ」

 

「いや、まぁ、そうしたいのは山々ですが……。この状態では使えないですし。どうしようかなぁと悩んでたんです」

 

「うちに預けていただければ新品同様にしてお戻ししますけど」

 

「……ちなみに費用はどれくらいかかります? ネットで調べてみたんですがけっこう高いんですよね」

 

「そうだと思いますよ。こまかく見積もってみないと正確なことは言えませんがーー、ざっと10万円前後ですかね」

 

じゅ、じゅ、

じゅうまんえん???

 

ネットで見てある程度は覚悟してましたけど

やっぱりそんなにするんですか?

 

それだけあれば、新しい布団が買えるでしょ???

 

「よくお考えになってからでかまいません。リフォームする気になったらこちらに連絡ください」

 

「はぁ」

 

「ただーー」

 

「なんですか?」

 

「くどいようですが、これは一生モノの布団ですよ」

 

「はぁ」

 

「おそらくお母様はわかってて託されたのではないですかね」

 

「……」

 

 * *

 

 

お母さん

 

「一生モノだから。あなたが死ぬまで使えるわよ」

「これが私があなたに残す全財産だわ(笑)」

 

良い布団だということはわかります

 

なんで僕にこの布団をくれたんですか?

 

しかも妙なプレッシャーをかけて

 

もちろん直して使いたいですよ

 

でもね

本体が50万円

リフォームに10万円って

どんだけ高いんですか?

 

そんな布団にくるまって寝るかと思うと

逆に眠れなくなりそうです

 

 

はぁああああああ

 

どうしたものやら

目下の悩みである。

 

 

 

 

 

では、また。