ども、更新の岡田達也です。
生命保険に入っている。
大学を卒業して、すぐに加入した。
それはけっして、自分の意思で入ったわけじゃない。
どちらかといえば渋々だった。
僕の叔母・多鶴子さん
(調布市在住、ジョージ・クルーニーが憧れの人)
の同級生(Yさん)が保険会社に勤めていたのだ。
「達也! あんたも社会人になったんだから保険に入らなきゃダメ!」
という、至極まっとうな意見に聞こえる殺し文句で口説かれて加入したが
なんてことはない
多鶴子さんの友人の営業成績を上げるために生贄になった
ーーというのが本当のところだ。
* *
先日、その保険会社から更新の案内が届いた。
そうか
前回の更新から10年経ったんだ……
歳を取るのは早いものだなぁ
そんな呑気なことを思いながら開封してみると
そこには度肝を抜かれる内容が書いてあった。
「何も連絡をいただかないで自動更新を選択された場合、今のプランが自動的に継続することになり、11月1日より月々の掛金が約2倍となります」
……おいおいおい
……まてまてまて
払えるか、そんなもん
てか、この封筒を開封しなければ自動的に更新されてたのかよ?
危なかったぜ
あ!
思い出した!
今までの更新時は封書だけでなく
Yさんが気を利かせて必ず電話をくれていたっけ
だけど彼女は去年引退したんだ……
ため息をついてると
息子の態度を不審に思った父・隆夫さんが尋ねてきた。
「なんだ? どうしただ?」
「いや、放っておいたら保険料が2倍になるって案内が来て」
「だったら契約の見直しをすればええが」
「うん、まぁ、それはそうなんだけど……」
「何かの保証を下げればええでないか?」
「うん」
「おまえが死んだらいくら入るだ?(ニヤリ)」
……おいおい
物事には聞き方ってもんがあるだろ?
なんだ、その言いぐさは?
「そこの金額を下げれば、安くなるでないか?(ニヤリ)」
それはわかってるよ。
だけど、仮に
僕の死亡保障が1億だろうが千円だろうが
あなたにはビタ一文、渡す気はないです。
「お母さんが亡くなったときはビックリしたけなぁ」
*
母・秀子さんは何もかもキチンとした人だった。
お金にもルーズなところはなく
真面目に働いてコツコツ貯金をしていた。
そんな彼女が亡くなったとき生命保険が下りた。
保険料の受取人となっていた僕は
(ここを隆夫さんにしなかったのも母の正しい判断だ)
その金額がちょうど葬式代でトントンになる数字だったことに感心した。
万が一、自分が先に亡くなった場合
余計なお金を残さないようにちゃんと考えていたのだ。
「あぁ、お母さんらしいな。先が見えてる」
そう言って僕は笑ったのだが
隆夫さんの反応は違った。
「え? そんなもんか? 葬式出したらおしまいだな」
……おい、コラっ
お母さんの配慮がわからんのですか?
あなたに余計なお金が行かないようにしてあるんですよ
母は生前、僕に言っていた。
「お金はあなたが管理してね。お父さんにお金を渡しちゃダメ。絶対に」
遺言と言っていい。
*
「俺が死んだら、おまえに500万円入るけなぁ、安心せい(笑)」
……それは自慢か?
……秀子さんより高い金額が自慢なのか?
だいたい
そのお金は僕の小遣いではないし
もっと言えば
あなたにかけられた迷惑料としては安すぎるんですけど
倍でも全然足りません
「ま、おまえも無理せず、値段を下げればええが」
* *
今日、保険会社の方と話をする。
今、僕の命をいくらにしようか悩んでいる。
では、また。