ども、襲われないで済んだ岡田達也です。
みなさんに読んでいただいているこの『達也汁』
身内のイラつく話や
(主に父・隆夫さんのこと)
身内の面白いおしゃべり
(主に叔母・多鶴子さんのこと)
それから
日常で起きた面白い出来事
日常で出会った面白い人
芝居を観て思ったこと
芝居をやって気付いたこと
などを中心に
みなさんにとっては
しょうもない内容だったり
実にどうでもいい話ばかりを書き綴っている。
そんなに毎日書きたいことが転がってるわけでもないし
正直に言うと、無理やりひねり出している日の方が多いくらいだ。
それでも
せめて嘘がないように
昨日の出来事を思い出しながら書いている。
そこに関しては真面目に取り組んでいるのだ。
大事なことだから二回書いておく。
この「不真面目な人間」が
実に「真面目に」取り組んでいるのだ。
そこは信じてほしい。
* * *
昨日の朝
網走湖のほとりを散歩しようとホテルを出た。
フロントにいた親切そうなおじいさんに
「くれぐれも右側には行かないように。この季節から熊が出始めますから」
と念を押された。
*
湖のほとりに行った。
先客がいた。
山口良一さんがベンチに座って、網走湖を眺めている。
いい
実にいい
おだやかな湖を静かに眺めるのが絵になるなんて……
大人になるってことはこういうことかもしれないなぁ
僕も64歳になったら湖の似合う男になれるんだろうか?
僕は山口さんに近づいて声をかけた。
「おはようございます」
「おはよう」
朝の挨拶を済またあと
僕は念のために、先ほどフロントで聞いた熊の話を山口さんに伝えた。
山口さんは知らなかった。
あぁ、やっぱり
伝えておいて良かった
僕は散歩に戻ろうとした。
と……
山口さんが口を開いた。
「岡田くん、右に行ってみたら?」
「えっ?」
この人は僕の話を聞いていなかったのだろうか?
「右に行けば熊が出るかもしれないからくれぐれも行くな」
という内容を伝えたばかりじゃないか
「あの~、熊が出るってーー」
「そう、だからこそ行くんだよ!」
山口さんの口調が強まった。
「は?」
「熊に遭遇すれば、明日の『達也汁』のネタになる」
「……」
「それがブロガーとしての使命だ!」
ちょ、ちょ、
ちょっといいですか?
山口さん
確かに僕は毎日書いてますが
自分がブロガーだとは思ってませんし
そもそも
熊に出くわしたらどうするんですか?
「それこそ良いネタじゃないか!」
「……」
「スマホでカメラを撮りながら襲われればいい!」
「……」
「隆夫さんや多鶴子さんが出ないなら、代わりに熊に襲われるくらいしなきゃ!」
「……」
「『達也汁』の読者はみんなそれを待ってるんだよ!」
おおおおおぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!
せんぱあああああぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!
誰も待ってないでしょ、そんなブログ!!!!!
そんな惨劇の記事
朝っぱらから読みたいですか???
読みたいと思いますか???
だいたいね!!!
どうやって書くんですか、その記事???
「ども、昨日熊に襲われた岡田達也です」
って書き出しですか?
100%、信じてもらえませんよね???
「オチはなんだろうな?」って思われるのが関の山ですよね???
「熊の爪が僕の喉元に食い込んでけっこう痛かったけど、それでも先輩の言いつけを守って、僕は必死にカメラを回した。なんてエライんだろう、自分」
って感じですか?
そんな臨場感、必要ですか?
通勤電車の中で読んでる人が気分悪くなって、電車が止まって、遅延が起きて、首都圏に大迷惑をかける可能性すらありますよね?
「現在、病室からの更新です。Wi-Fi環境が悪いので明日の更新はお休みします。いや、環境問題以前に、明日、生きてるかどうかわからないので、もしもまだ息があれば更新しますね。では、また。」
って文章を読んでどう思います?
「あぁ、岡田くんは意外と律儀だな」とか思うんですか?
違いますよね!!!!!
そこじゃないですよね!!!!!
いくらツッコミどころの多い文章を毎日書いてるからって
もはや根底がズレすぎて
この日記の存在価値基準がおかしくなってませんか!!!
……はぁはぁはぁはぁ
朝から思いっきり心の中で叫んでしまった
* * *
『達也汁』は僕が書いている。
だから間違いなく僕のものだ。
だけど
僕だけのものではなく
読んでくださっている方、みなさんのものでもある
そのことは十分に承知している
……つもりだ
だが
いくら山口さんが熱心な読者とは言え
僕にもできることとできないことがある
一応、書き留めておくが
僕はユーチューバーみたいなスタンスではないので
ネタがないからといって
「命がけの体験記」を書くようなことはしません
* * *
「あ、そう。熊はダメか」
「ダメに決まってるじゃないですか」
「だったらさーー」
山口さんは網走湖で船を操作しているおじさんを指さして言った。
「あのおじさんに頼んで一緒にシジミ漁を体験させてもらうっていうのはどうかな? いいネタになると思うよ」
……ダメだこりゃ
では、また。