ども、矛盾に悩む岡田達也です。
稽古が進んでいる。
* * *
今回、「お千代さん」という役が
山口智恵さんと田中真弓さんのダブルキャストになっている。
真弓さんはちょっと前まで別の本番をやっていたため
稽古への合流が少し遅れてとなった。
現在、セリフやら段取りやら
覚えなければならない“大量の敵”に追いつこうと
「記憶力の低下を防ぐアメ」なるものをなめながら頑張っている。
昨日、とあるシーンの稽古中。
何度もやっている智恵さんが先に演じた。
次に真弓さんが演じた。
真弓さんはまだ数回しかやっていない場面だ。
当然、あやふやな部分はある。
そして演出家の
「じゃあ、真弓さんでもう一回いきましょう!」
の号令がかかったときのこと。
真弓さんが申し訳なさそうに、だけど力強く言った。
「あ、あ、あの! わ、私は時間がかかるので! 後で、ゆっくり稽古しますから大丈夫です!」
稽古場は爆笑に包まれた。
真弓さんが言いたかったことをもう少しわかりやすく解説すると
「私は、セリフも段取りもあやふやで、この場面をちゃんと演じれるようになるまで、まだまだ時間がかかります。なので、私なんかにかまわずどうぞ先に進んでください。後でゆっくり自主稽古しますから、もう一回やらなくても大丈夫です」
というようなことだ。
わかる
とてもわかる
とてもを通り越して痛いほどわかる
僕が思うに……
稽古っていうのは
できないことを繰り返しやって、身体に染み込ませて、できるようになるための時間であって
台本渡されて、段取り言われて、それですぐに芝居ができるなら、稽古なんて必要ない
だから稽古は時間がかかっていい
というのは間違いない本音
だけど不思議なもので
自分の覚えが悪かったり、出来が悪かったり、演出家に目を付けられてお目玉を食らう時間が長かったりすると
「どうか私にかまわず先に進んでください! あとで自主練しておきますので、私に時間をかけないでください!」
という気持ちになるのも本当だ
これは、一にも二にも
稽古場にいる共演者たちの貴重な稽古時間を自分が奪ってしまっている、という申し訳無さ
これに尽きる
これは、かなり辛い
お芝居をやってない方には「なんのこっちゃ?」という話だろうが
舞台をやってる俳優さんなら理解してもらえると思う。
*
役者たちから声がかかった。
「そのための稽古時間なんですから!(笑)」
「後で一人でなんて寂しいこと言わないで、みんなでやりましょうよ!(笑)」
演出の田村くんからも
「大丈夫です、真弓さん。段取りを追いながらもう一度やりましょう」
と声がかかった。
真弓さんは
「すみません、すみません、ありがとうございます」
と何度も言いながら稽古場の真ん中に立った。
*
僕はアニメの世界に詳しくないけど
真弓さんなんて声優の世界では大御所中の大御所なのは間違いないだろう。
だけどこのように
普段からとても謙虚で、とてもチャーミングな女性だ。
クリリンもルフィも素敵なんだろうけど
女優の田中真弓が演じるお千代さんも負けてないと思う。
では、また。