ども、居候生活も残り2日の岡田達也です。
叔母(多鶴子さん)の家に居候している。
* *
エンゼルス・大谷翔平選手がサイクルヒットを達成した。
(野球がわからない方、ごめんなさい)
すばらしい。
実にすばらしい。
一体、メジャーリーグで何人の選手がサイクルを打つことができるだろう?
そもそも実力があって
タイミングやらめぐり合わせの運も持ち合わせ
いろんな要素が重ならないと生まれる記録ではない。
ほんの一握りの選手だけが経験できることだ。
やはり大谷選手は持っている。
間違いなく持っている。
僕は”大ファン”というわけではないが
野球好きとしては応援していきたくなる男だ。
*
大ファンが、目の前にいた。
「達也。私な、月曜日になったら三菱UFJ銀行で口座を開設しようと思っとるんだが」
多鶴子さんが言った。
……銀行口座の開設?
この人は朝っぱらから何を言い出すんだろう?
別に口座を作るのはおばちゃんの勝手だし。
なぜ僕にそれを報告するのだ?
ポカンとする僕を見て叔母は言った。
「あんた、昨日の大谷くんのサイクルヒット、見てないだか!?」
ネットニュースでは読んだけど映像は見ていない
そのことを伝えるとーー
「あの子はなぁ、私に夢を見させてくれる」
もうじき80歳になろうというのに、まるで少女のような表情だ。
女性の奥深さを見た気がする。
いや、そんなことより
そもそもこの年齢の女性で、こんなにスポーツ全般に詳しい人は珍しい。
そこはすごい。
「だけぇ、三菱UFJで口座を作るだが!」
「は?」
「あんたは何にも知らんだなぁ」
「……」
「今な、三菱UFJのメインキャラクターは大谷くんだで!」
「あっ、そう言えばそうだったかな」
「銀行の窓じゅうに大谷くんのポスターが貼ってあるだろ?」
「うん」
「たぶんな、新しい通帳は大谷くんが表紙だと思う」
「え~~~~~! それはどうだろう?」
「そりゃそうだわいな! ここまで大谷くんを推しとって、通帳にならんわけがないが!」
「いや、でもーー」
「職場の同僚が言っとったけぇ、間違いない!」
その情報に信憑性はあるんだろうか?
世のおばさまがたの信じる力はものすごく強い。
ときにそれは大いなる勘違いを呼ぶが。
「いや、でもね、今さら必要ない口座を作ってどうするの?」
「毎月5,000円ずつでも貯金するわいな」
「ふ~ん」
「貯まってもあんたにはあげんで」
「……わかってるよ」
叔母は再びルンルンな表情になった。
「早く月曜日にならんかな」
「ねぇ。でも、本当に表紙なの?」
「私はそう聞いたで」
「だったらいいけど」
「まぁ、違ったら大谷くんの写真を通帳の表紙に貼るわ」
「……だったら三菱UFJじゃなくてもいいじゃね~か」
とは、さすがの僕も言わなかった。
「あの子は私に夢を見させてくれるけなぁ」
「……あなただけのためにプレイしてるわけじゃないよ」
とも言わなかった。
そのかわり
どうしても、どうしても
一つだけ確かめておきたいことがあったので、僕は訊いた。
「なんだかんだいって、顔が良いから好きなんじゃないの?」
「当たり前だ」
「……」
女性の本質を見た気がする。
*
大谷選手が表紙になるって本当ですか?
三菱UFJ関係者の方、どうぞお教えください。
叔母に伝えておきますので。
では、また。