ども、不合格の岡田達也です。

 

 

 

 

今、叔母(多鶴子さん)の家に居候している。

 

 *

 

リビングのテーブルの上に写真がペタペタと貼り付けてあった。

 

その上から透明なビニールシートで覆ってある。

 

 

小さくてわかりにくいかもしれないけど

「自分が旅行に行ったときの写真」

「息子が子供の時の写真」

「娘の結婚式の写真」

「孫の写真」

などが無造作に並べてあるのだが……

 

ん?

おや??

 

真ん中にデカデカと立っているのは

「ジョージ・クルーニー」ではないか

 

これ、家族写真だろ?

 

なんでジョージ・クルーニー?

 

 

「おばちゃん、ジョージ・クルーニーが好きなの?」

 

多鶴子さんは心の底から絞り出すように言った。

「い~い男だで」

 

「そうだね、世界を代表する男前だね」

 

多鶴子さんは少女のように言った。

「あのマスク!」

 

「いや、でも、こんな家族写真のど真ん中に飾るか?」

 

多鶴子さんは僕を諭すように言った。

「達也、よく見てみんさい。その位置にジョージ・クルーニーがおると、360度、すべての私の写真を彼が見つめとるだで」

 

「……いや、ジョージは一方向しか見てないーー」

 

多鶴子さんは表情を険しくして言い放った。

「そんなことあらせん! 少し離れて見たら私を見つめとる! あんたは人のいい気分を壊すんか?」

 

「……」

 

これ以上、この議論を重ねても無駄だ。

僕は話題をそらした。

 

「ああいう顔が好きなんだね?」

 

「わりとそうかも。正統派の二枚目が好きかな」

 

「他に好きなのは?」

 

多鶴子さんは遠い目をして言った。

「……あの人が好きだったなぁ」

 

「誰?」

 

多鶴子さんは少し悲しい顔をして言った。

「でも、私が告白する前にいなくなってしまってーー」

 

「誰?」

 

「アラン・ドロン」

 

「……」

 

「ベタだけどな。いい男だった」

 

「……ちょいちょい、告白する予定だったの?」

 

多鶴子さんはしみじみと言った。

「間に合わんかったぁ」

 

我が叔母ながら面白いぞ、この人

さすが、我が父・隆夫さんの妹だけのことはある

 

「でもな、達也」

 

「?」

 

「彼がいなくなってからも、私は左右の靴下を違うの履いてなぁ」

 

「?」

 

「えっ? あんた、知らんだか???」

 

「知らんな」

 

「アラン・ドロンが左右、違う靴下履いとって、みんなそれを真似しとったが!」

 

「……俺、幾つだと思ってるのよ」

 

「あんたは遅れとるなぁ」

 

「……」

 

「しかもジョージ・クルーニーにもアラン・ドロンにもほど遠い顔だし」

 

……すみませんね、二枚目じゃなくて

 

 *

 

いくつになっても

好きな異性にときめけるってのは

生きる活力になったりするのかもしれません。

 

 

 

 

 

では、また。