ども、ちょっと視力が落ちてきた岡田達也です。
連日、父親の話で申し訳ない。
……なんだろう?
父のことを話したいわけじゃないのに、話さずにはいられない。
昔、劇団のメンバーで飲んでたとき
筒井俊作がいないのに、気がつけば筒井の話題ばかりになっていたことがあった。
「あ、また筒井の話題になってる」
「もう筒井の話題は禁止」
そう言いながら、3分後には再び筒井の話題になる。
なってしまっている。
それと一緒だ。
影響力を持つ人間は恐ろしい……
* * *
父・隆夫さんを連れてメガネ屋さんに行った。
起きている間、ずっとハズキルーペをかけている父の姿があまりにも不気味だったので
誕生日プレゼントにかこつけて遠近両用メガネを作りに行ったのだ。
「いや、ええで(要らないの意)。遠近は持っとるしなぁ」
最初はそう言っていた。
しかし、それは10年近く前に作ったもので
とてもじゃないが今現在はピントが合ってないと思われる。
ただでさえ80歳も超えたし
オマケに
「ハズキルーペをかけながら手元から遠くまでを見る」
という“有り得ない使い方”をしていたので、絶対に視力は落ちているはずだ。
*
「……左目が見えにくくないですか?」
視力検査位を終え、若い男性の店員さんが口を開いた。
「いや、見にくくないです。見えます!」
父はキッパリと言い返した。
「そうですか……」
店員さんは“そんなはずはないんだけど“という表情をしながら言った。
僕 「いくつになってます?」
店員さん 「右が0,4 左が0,2ですね」
父 「えぇ!? おかしいな」
僕 「何が?」
父 「俺の目はええ(良い)はずだけどな」
僕 「視力いくつだったの?」
父 「1,2」
……この人は一体いつの時代の話をしているのだろう?
そんな数値がまかり通るなら、人は何を言っても許されるだろう。
誰もが「私は永遠の20歳です」と言ってるのと変わりない。
生きていればいろんな数値は変わるのだ。
年齢も
体重も
体脂肪も
視力も、聴力も
店員さんがとりなすように言った。
「まぁ、年齢を重ねますと、どうしても視力は落ちますね。特にお父様は視力が良かったそうで。そういう方はなおさら落ちるスピードが早かったりするんです」
不安になった僕が尋ねた。
「あの~、僕も視力が良いんです。前よりはちょっと悪くなって、それでも1,2だったりするんですけど。やっぱり落ちていくんですかね?」
「そうですね。やはりーー」
店員さんが答えようとしたとき
「当たり前だ」
隆夫さんが横から口を挟んできた。
「はっ?」
「年を取れば視力が悪くなるのは当たり前だ」
……あのですね
ついさっきまで「俺の視力は1,2だった」って言い張ってませんでしたか?
「見にくくないです」って言い張ってましたよね?
なんで突然、老化を肯定し始めたんですか?
「誰だって生きてれば数字は悪くなるだけな」
「……」
*
帰り道
父は上機嫌で言った。
「新しいのを買ってもらっても、もったいなくて(メガネを)かけられんなぁ」
この人の天の邪鬼には商品価値がある。
そう思いませんか?
僕だけですか?
では、また。