ども、パー券を買ったことがない岡田達也です。
昨日の夕方
父・隆夫さんから「迎えに来てくれ」との連絡があった。
僕は鳥取駅南口にあるパチンコ屋に向かった。
このパチンコ屋、そこそこデカい。
不思議なつくりになっており
5階建てで、その1階と3階部分にパチンコとスロットのフロアがある。
そして、1階にはカウンターだけの小さな食堂がある。
このお店、いつ覗いても若者はいない。
ひょっとして「60歳以下の方、入店お断り」とか、年齢制限がしてあるんじゃないか?
と疑いたくなるほど高い年齢層の大人たちで繁盛している。
ある者は大勝して気分良くビールをあおり
ある者は大負けして肩を落としながらビールをあおり
人生の先輩たちは
買っても負けてもここに立ち寄り
その日の勝負の反省をしているらしい。
*
迎えに行った僕は、なんとなくそのお店を覗いてみた。
いた。
父がキムチをつまみに瓶ビールを飲んでいた。
その目の前にはお店のママ(64歳)が立って話し込んでいた。
どうやら他に客はいないようだ。
ママの話し声は明るい。
声を聞くだけで、活気ある、明るい人だというこが伝わってくる。
僕はお店に入った。
父 「おおっ、よくここだってわかったな」
僕 「なんとなくね」
ママ 「息子さん? ]
僕 「そうです。いつも父がお世話になっています」
父 「そうだで。ここのママには本当にお世話になっとってなぁ」
僕 「へぇ」
父 「俺はよく味噌ラーメンを食べるだが」
僕 「うん」
父 「本当はチャーシューは2枚って決まっとるだけどなーー」
僕 「うん」
父 「お父さんのだけなーー」
僕 「うん」
父 「3枚入っとるだが」
僕 「……」
父 「いつもいつもな」
僕 「……(めちゃめちゃ得意気に話すな)」
ママ 「ちょっと、岡田さん!(笑)」
父 「でもな、他にも食べとるお客さんがいっぱいおるだろ?」
僕 「うん」
父 「だけな、俺のだけ1枚多いのがバレたらいけんが」
僕 「まぁな」
父 「エコひいきされとるみたいになるけな」
僕 「……(それが嬉しいくて自慢してるんじゃないのか?)」
父 「ママはな」
僕 「うん」
父 「他のお客さんに見つからんように、わざわざ1枚だけ、麺の下に潜り込ませてくれとるだ」
僕 「……」
ママ 「もう、やめてぇな、岡田さん!(笑)」
父 「俺のだけな」
もしかすると、だが。
そう思ってるのは父だけで
実はこの陽気なママは
常連客全員にチャーシューを1枚サービスしているのかもしれない。
僕はそんなことを想像して可笑しくなった。
まぁ、余計なことは言わないでおこう。
父 「去年もな、一緒にクリスマス・パーチーに行ってな」
僕 「……クリスマス・パーティー?」
父 「え? 知らんだか、クリスマス・パーチー? パーチー券ていうのを買ってなーー」
僕 「いやいや、それはわかるけど! ええっ!? パー券なんてよく知ってるね!?」
ママ 「このお店の常連さんでね、飲み屋をやってる人がいて。その人がみんなに売ってたんです」
このオヤジ、そんな話、一度もしなかったじゃねーか
ずいぶん楽しいクリスマスを過ごしてたんだな
それにしても「パーチー」だけ直らないものか?
そんなことを考えていると、前歯のかけたおじさんが入ってきた。
前歯 「あれ! もしかして岡田さんの息子さん?」
ママ 「そうなのよ!」
前歯 「いや、これはこれは! お父様にはいつもお世話になっております!」
僕 「いえいえ、こちらこそ」
前歯 「いや! 本当に世話になっているんです! この店に来る客で、本当に勝てる台を知っているのは岡田さんだけです! いろいろご教授いただいてるんです」
父 「この人は良い人なんだけど、パチンコは弱くてな(笑)」
僕 「……」
前歯 「岡田さん、またよろしくお願いします!」
父 「了解しました」
僕 「……」
父 「じゃぁ、帰ろうか」
ママ 「息子さん、食べなくても良いからね、水だけでも飲みに来てね!(笑)」
*
人生の先輩たちは、僕の知らないことをたくさん知っている。
そして。
僕の知らない父の姿というのもまだまだたあるようだ。
今度、父のいないときにママの話を聞きに行こう。
では、また。