ども、昔は汗っかきだった岡田達也です。
確定申告に出掛けた。
個人事業主である俳優にとっては大事な仕事の一つだ。
とにかく“不安定の極み”みたいな職業なので、毎年の収入額が大きく違う。
ちなみに。
僕の場合、来年は5億円くらい稼ぐ予定にしているが、去年はその100分の1にも満たない数字だった。
(……大丈夫だ。医者は呼ばなくていい)
このようにアップダウンが激しいので、キッチリ申告しておかないと、まるで脱税しているかのようなことになってしまう。
ただ。
この確定申告、なかなか難しい。
基本的には数字を書き込めばいいだけだが、理解しにくい部分が多い。
そして、ここを適当にごまかしてしまうと「脱税」になってしまう。
『岡田達也、脱税』
……新聞、テレビ、ネットでは取り上げもらえないだろうが、演劇界ではちょっとしたニュースになる可能性がある。
それだけは避けたい。
僕は、国税庁のHPから用紙をダウンロードし、自分で書類を作成し、税務署に出掛けた。
ほとんどの欄は埋まっている。
だが、ちょっぴり自信がなくて空白の部分もある。
念のために職員の方に確かめることにした。
*
順番待ちしていた僕が呼ばれた。
僕の担当になった職員の方は、舞の海関によく似た、太めの方だった。
太め……
いや、かなり太い方だった。
そして
この人が
筒井俊作以上の
とんでもない汗っかきだった。
*
2人で立ったまま並んだ。
僕が書類を開いた。
その時点で、舞の海関(仮名)は汗だくだった。
お互いに、まだ一言もしゃべっていない。
彼は「すみません」と僕に誤りながら、白いハンカチで額の汗をぬぐった。
僕は書類を出し終わって
「ここなんですけど……」
と訊きたいポイントを指さした。
と。
舞の海関は、さきほど汗を拭いていたにもかかわらず、すでに額から汗が流れ、頬を伝わり、顎先から滴った。
「すみません、すみません」
そう言いながら、彼は再び汗をぬぐった。
僕は汗っかきな人に何人も会ってきた。
だが。
舞の海関はレベルが違う。
拭いても、拭いても、流れ出てくるのだ。
絶対にハンカチでは間に合わない。
このままでは話が進まない。
「ハンカチではなくタオルのほうが良いんじゃないですか?」
僕がそう言うとしたときだった。
彼は僕が何か言おうとしたのを察してか
「あ、大丈夫ですから」
と言いながら、僕の書類を覗き込んだ。
その瞬間
ボタボタっ
僕の申請書類の上に、汗が落ちた。
書き込んだ数字がちょっぴり滲んだ。
「……」
「……」
2人の間に沈黙が流れた。
舞の海関が口を開いた。
「大丈夫です。ご安心ください。これでも申告できます」
……当たり前だ
これで提出できなくなったら暴れるわ
*
もしも僕が脱税で捕まったら、それは舞の海関(仮名)の責任だと思ってください。
では、また。