ども、岡田達也です。

 

 

 

昨日のつづき。

 

 *

 

「これ、使えませんか?!」

 

今井義博(別名 拾う神)は

駐車場のフェンス際に捨てられていたV字の針金をゲットしてきた。

 

なぜ?

なぜ?

駐車場のフェンス際に?

V字の形をした針金が落ちているのだ?

この不思議な形の針金は、一体、何の目的で作られたものなのだ?

 

……

……

 

わからない

何もわからない

誰も答えてくれない

 

でも、それでいいのだ。

 

だってだって!

人生って!

わからないことだらけじゃないか!

 

こっちはなぁ!

勉強も、恋愛も、金儲けも、芝居が上手くなる方法も

何もわからないまま50年も生きてきたんだぞ!

(……努力不足じゃないのか?)

 

なぜ、針金が、ここに落ちているのか?

そのことを

僕ごとき人間が理解しようとすることが

そもそもおこがましいのだ。

 

だとすれば

黙ってその事実を受け入れるしか

僕らに残された道は無い。

 

 

僕は針金を握りしめた。

 

 *

 

トラックの運転手をやっていた僕にはわかる。

 

この仕事に必要な能力の大きな一つに

「南京縛り(あるいは南京結び)ができること」というのがある。

(※ 南京縛りとは荷物を頑丈に固定するためのロープの結び方)

 

これがあれば、多少運転が下手でも、荒くても何とかなる。

もちろん晋さんも上川先輩も僕も、南京縛りの名手と言っていい。

 

だが、残念ながら今回はロープではなく針金だ。

こいつは自由自在に曲がらない。

いくら南京縛りの方法を知っている人間が揃っていても意味がない。

 

ときに真っ直ぐにし

ときに力任せに曲げ

ときに口に加えて

僕らは1時間近くを要して、何とか幌を固定した。

文字通り何とか、だ。

 

だが。

 

それは本当に「何とか止めた」というレベルであって

僕らにも「これで行けるぞ!」という確信があるわけではなかった。

 

 *

 

舞台監督の晋さんが言った。

 

「よし、出発しよう!」

 

僕たちはすでに疲れていた。

もう頷くしかなかった。

 

配置が決まった。

 

針金で止めた幌を被せた4tの運転はたかやん先輩

そして晋さん

そして今井くん

 

アルミで覆われて何の問題もない2tの運転は僕

そして同乗者は制作部の庄村くん

 

これで東京まで走ることになった。

 

 

晋さんは続けた。

 

「達也くん、ご覧のとおり幌は非常に不安定だ。常に4tトラックの後ろを走り、異変があった場合はすぐにパッシングするか、前に出て「止めろ」の合図を送るか、どちらかを行ってほしい」

 

念を押す。

携帯電話など無い時代だ。

 

そんなアナログな

言い換えれば人間臭い方法で

非常事態に備えるしか無い。

 

それにしても……

この場合の「異変」はかなりの大事に繋がる。

何が何でも防がなくてはならない。

 

「わかりました」

 

僕は自分の体内の血が興奮するのがわかった。

 

 

つづく

 

 

追伸

ここまで書いておいてなんですが、明日明後日はお休みさせていただきます。