ども、記憶の糸をたぐる岡田達也です。
昨日のつづき。
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土砂降りの中
名古屋・中村文化小劇場の搬入口に残された我々5人
村岡晋(舞台監督)
上川隆也(4tトラック運転)
岡田達也(2tトラック運転)
今井義博(仕込み・バラシ要員)
庄村拓也(制作部)
リーダーである晋さんが言った。
「もう、こうなったらジタバタしても始まらない。のんびり、ゆっくり、安全にやろう。明日の朝9時までに青山円形劇場(東京)に着いてれば良いんだから」
我々はうなずいた。
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さて。
トラックの平ボディというのは
解体した美術セットを
上手に上手に積み重ねて
一番上に幌(※)を被せ
それが飛ばないようにしっかりとロープで縛り付ける必要がある。
(※ホロ 風雨や砂ぼこりなどを防ぐために車両などを覆う防水布)
アルミの箱車ならばその必要がない。
荷崩れしないように
テトリスみたいにきっちりと隙間を埋めて荷物を入れることさえできれば
外側は全て覆われているため
雨風の影響は受けないので何の問題もない。
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さて。
レンタカーでトラックを借りるとき
必要に応じて備品を借りることがある。
例えば
幌を縛るために必要な頑丈で長い綿ロープ
(4tトラックには必須)
例えば
荷崩れを防ぐためのラッシングベルト
(2tトラックの場合はこれがあると心強い)
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なんとか荷物は積み終わった。
2tトラックの扉は閉めた。
あとは4tトラックに幌をかけ、ロープで縛り上げるだけだ。
ここで、
たかやん先輩が、
晋さんに声をかけた。
「……晋さん、ロープが見当たらないんですけど」
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人が日常で発語する言葉は
そのほとんどが「棒読み」だと言われている。
よほど感情的にしゃべらない限り、大きな抑揚はつかない。
特に日本人はその傾向にある。
例えば欧米人や中国人のしゃべりを思い浮かべてほしい。
彼らの多くは、非常ににぎやかで、激しいアップダウンがある。
これはお国柄による、感情表現の違いだ。
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先輩の
「……晋さん、ロープが見当たらないんですけど」
という発言
とても静かなトーンで
あれは間違いなく棒読みだった。
にもかかわらず
その瞬間の、僕の背中に走った嫌な予感の量は、半端なかった。
おそらく僕だけではなかったはずだ。
晋さんも
今井くんも
庄村くんも
誰も口を開けなかった。
それほど、あの静かな一言には、力があった。
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若い俳優さんたちよ
よく覚えておきなさい
セリフに必要なのは大きな抑揚ではない
セリフに必要なのは圧倒的な実感だ
特に日本で舞台をやるならば、ね。
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夜22時
搬入口も閉じられ
劇場の人もいなくなった今
僕らは“ロープが無い”という事実を突きつけられ
土砂降りの中、トラックの前で立ち尽くした。
つづく