ども、巨匠に触れた岡田達也です。
浅利慶太さんが亡くなられた。
僕は『ライオンキング』に出たこともないし
『CATS』にキャスティングされたこともない。
確かに
“岡田達也とミュージカル”
どうにも想像がつかない。
当たり前だ。
歌えないし、踊れないし、
どこをどうやってもミュージカルには不必要な役者だ。
なんだけど。
実は、一度だけ、浅利先生のオーディションを受けたことがある。
(正確には『劇団四季』ではなく『浅利慶太事務所』時代のお話)
最初は何の間違いなのか?と思ったが
話を頂いたのはストレートプレイの作品だった。
台本を読んだ。
とても面白かった。
「これなら歌えなくても踊れなくてもやれる」
そう思った僕はオーディションを受けさせてもらった。
*
恥ずかしながら、僕は『劇団四季』を観たことがない。
だから噂でしか知らなかった。
「浅利先生はとっても怖いらしい」
「稽古場に「一音落とすものは去れ!」という張り紙がしてある」
「母音法ができない役者は必要ない」
など
テレビで見た、あるいは、人に聞いた
そんな、噂話でしか知らない”雲の上の人”だった。
*
稽古場に入った。
僕は緊張していた。
と……
先生はスッと近寄ってきて僕に手を差し出し
「気楽に楽しんでね」
と言って、ニコッと笑いかけてくれた。
その柔らかい笑顔に僕はずいぶん救われた。
セリフを読んだ。
その後
先生が僕のプロフィール用紙を見ながら質問してきた。
「……君、居酒屋評論家なの?」
僕は慌てた。
「いやいや! それは、何と言いますか……」
しまった
そんなしょうもないプロフィール
消しておけば良かった
「僕はお酒が好きでして、で、居酒屋が好きでして、で、チェーン展開している居酒屋が苦手でして、で、オンリーワンなお店を探すのが好きでして。あくまでも「自称」居酒屋評論家と言いますか、……まぁ、要は飲み歩いてるだけです」
マズい
言ってることがワヤクチャだ
だが。
「あ、そう! 君、面白いね(笑)」
え?
驚いた
しかめっ面されるかと思ったら
全くの逆で
顔をクシャッとさせて大笑いされた。
それを見ただけで
「オーディションを受けて良かった」
……と思った。
*
結果、縁がなく僕は落ちたが
(縁じゃなくて実力不足だろうが)
日本を代表する演出家と
たった数分だけでも、時間を共にできたことは大きい。
残念ながらその演出を受けることはできなかったけど
もしもご一緒させてもらえていたら
どんなダメ出しをもらってたんだろう?
と想像する。
ご冥福をお祈りします。
では、また。
追伸
無事に仕込みの手伝いをやってきました。
本日、鳥取に帰り、再び広島に現地スタッフとして現れる予定です。
『エンジェルボール』
浅利先生が手がけた京都公演で開幕します。