ども、二層式が好きだった岡田達也です。
東京に帰ってきた。
何日ぶりだろう?
自分の記憶があやふやで、何もかもが曖昧になってしまっている。
どれくらい旅に出ていたのかすらハッキリしない。
ただ、ひたすら仕込みとバラシと本番を繰り返している感覚だけが残っている。
それと
ホテルの朝食バイキングをしっかり食べてる記憶はある。
それと
ホテルの大浴場に浸かってる記憶はしっかりとある。
(……けっこう旅を満喫してるんじゃないのか?)
それと
笑っている。
楽屋でも、ホテルでも、飲み屋でも。
ずっと笑っている。
我々の脳みそが腐ってきたのだろうか?
男どもの会話がいちいち面白い。
芝居の話も、酒の話も、エッチな話も、人生の話も
何もかもが笑い話に聞こえてくる。
ま、それくらいのほうが健康に過ごせて良いのかもしれない。
* *
このように
心も体も健康に過ごしているつもりだった。
だが。
やはり疲れが溜まってきているのだろうか?
一昨日、塩尻のホテルでまったく笑えない出来事があった。
*
本番を終え17時にホテルに戻ってきた。
18時30分に人と待ち合わせをしていた。
時間に余裕があるので、ホテルの大浴場に向かうことにした。
そういえば……
脱衣場に洗濯機が置いてあったな
よし、風呂に入るついでに洗ってしまおう
もうすぐ東京には帰るけど、今洗ってしまっておけば楽チンだし
僕は勢いよく洗濯物を放り込み200円を投入した。
残り時間が「38分」と表示された。
洗濯機が動き始めた。
僕は、浴室に入り、汗を流し、浴槽につかった。
手足を伸ばし疲れをと……
疲れを……
つか……
あれ?
なんだ、この違和感?
何かが引っ掛かる
う~ん
う~ん
あ!
あの洗濯機!
そういえば
俺は洗剤を投入してないぞ……
自動で入れてくれるやつなのか?
それとも別なのか?
僕は一度体を拭いて脱衣所に出た。
洗濯機の周りの注意書きを見てみる。
「洗剤を入れろ」とはどこにも書いていない。
しかし
「洗剤は自動で投入されます」とも書いてない。
どっちなんだ?
僕は洗濯機の蓋を開けた
泡立った様子は見受けられなかった。
……そうか
……そうですか
ここで事実を受け入れれば良いのだ。
諦めれば良いのだ。
だが。
僕は疲れていた。
何かにすがる思いで手を突っ込んだ。
……そうですか
……真水ですか
ここで事実を受け入れれば良いのだ。
だって
水だよ
どこをどう触っても水ですよ
だが。
僕は諦めが悪かった。
体を拭き、服を着て、フロントに向かった。
「あの~、風呂場に置いてある洗濯機なんですけど、あれって洗剤はーー」
「こちらのフロントでご用意させて頂いております。一袋40円です」
「……そうですか」
僕は風呂場に戻った。
計算では17時50分に洗濯が終わる。
もう一度回しても、待ち合わせにはギリギリ間に合う。
はぁ……
面倒だけどそうしよう
僕は再びフロントに行って洗剤を購入した。
つづく