ども、人生は狂い咲きの岡田達也です。

 

 

 

明日は『母の日』だ。

 

今でもそんな風習が残っているのか知らないが

僕が子供の頃は「カーネーションをプレゼントする」ってのが定番だった。

 

僕の母・秀子さんは花が大好きな人だった。

実家の庭は彼女の趣味でたくさんの花と木が植えられている。

面積は小さいのだけど、ちょっとした庭園風に作られており、それが彼女の自慢だった。

 

そんな人だからカーネーションをプレゼントするととても喜んでくれた。

 

だけど。

小学何年生のときだったろう?

秀子さんがリクエストしてきたことがある。

「今年はカーネーションじゃなくてバラをちょうだい」と。

 

「えっ?」

僕はちょっと戸惑った。

母の日はカーネーションじゃないとダメなのではないか?

 

秀子さんは言った。

「いいの、いいの。気持ちの問題だから」

 

そういうものか……

僕は今一つ納得していなかったが

二人で『鳥取生活センター』(現在は『TOSC』という名前になっている)の中に入っている花屋に出かけた。

 

「一本でいいからね」

 

「わかった」

 

僕は花屋のおばちゃん店員さんに声をかけた。

「すみません。バラをください」

 

気さくなおばちゃんが指さした。

「バラね。そこのバケツに入ってるよ。何本ほしいの?」

 

「一本でいいんです」

 

「プレゼント?」

 

「はい。お母さんに」

 

「じゃあ、好きなの選びなさい」

 

僕は今でもそうだが

秀子さんの息子なのに花にはあまり興味がない。

 

真っ赤なバラを見比べてみたが、どれが良いのか、今一つわからない。

と。

一本だけ、目を引くバラがあった。

 

そのバラは花びらが開いていた。

全開で。

他のバラはすべて花びらが閉じているのに、その一本だけ見事に開いている。

 

子供心に思った。

「これはすごい!」

 

だって。

花って咲くものでしょ?

見事に咲いてていいじゃないか。

 

僕はそのバラを指さして言った。

「これください!」

 

おばちゃんは笑った。

「これ?(笑)」

 

「そうです」

 

「じゃあ、これはおばちゃんからあなたにプレゼントするから、もう一本選びなさい(笑)」

 

ん?

ん?

んんん???

 

意味がわからなくて戸惑っている僕におばちゃんは教えてくれた。

「花はね、咲いていく様子を楽しむものなの。だから咲く前のものを選ぶんだよ」

 

ええっ!

そうなんだ!

 

僕はとても大切なことを教わったような気がした。


振り返ると

秀子さんは僕とおばちゃんの会話を、後ろで立って笑って見ていた。

 

そして僕は

改めて選んだ閉じたバラと、その咲いたバラ、

その二本を秀子さんにプレゼントした。

 

 *

 

鳥取を離れ、花をプレゼントすることはなくなった。

その代り、彼女が欲しがったのはハンドクリームだった。

僕はいろんなお店に行って香りの良いものを選んで送った。

特に『ロクシタン』の桜の香りのヤツはとても気に入ってくれたみたいだった。

 

今年、初めて母の日のプレゼントを贈らない。

それがちょっぴり寂しくもあるけど、

その代り、母の日になったら思い出せる“咲いたバラ”の話がある。

 

それはとてもステキなことだったりするのかもしれない。

 

 *

 

鳥取生活センターのおばちゃん

ありがとうございました。

あのとき、達也少年は大人の階段を上りました。

 

 

 

では、また。