ども、吠えられた岡田達也です。
昨日は『無伴奏ソナタ』のパンフレット撮影があった。
何度も、何度も書いているが……
僕は写真に対して苦手意識がある。
撮るのも、撮られるのも。
知らないうちに撮られているのなら大丈夫だ。
だけど
カメラがこちらをしっかり狙っていて
そこに向かって何かを表現する
となると俄然固くなる。
カチコチでぎこちない岡田達也の出来上がりとなる。
しかし、これも仕事だ。
僕は覚悟を決めて、メイクをしてもらい、普段は絶対に着ることない衣装に身を包んだ。
今回は小道具として、各々が楽器を持っての撮影となった。
僕はトランペットを充てがわれていたのだが、実際に演奏できるトロンボーンに変更してもらった。
持ち慣れている楽器のほうが、まだしっくりくるだろうと考えたのだ。
ぎこちない男が、ぎこちない小道具を扱っているなんて、絶対に絵にならない。
*
カメラマンさんの前に立った。
僕は何気なくトロンボーンを吹いた。
カメラマンさんが驚いた。
「岡田さん、吹けるんですか?」
「少しだけですが」
「子供の頃からですか?」
「いや、芝居で吹かなきゃいけなくて。それで覚えました」
「なるほど。やっぱり役者さんって、必要に応じていろんなことを身に付けるんですね」
「あぁ、そういう部分もありますね」
数年前。
僕は日常会話に困らないくらい手話ができるようになった。
あれは『小さき神の作りしき子ら』という芝居をやったおかげだ。
筒井俊作はジャグリングが上手くなった。
『トリツカレ男』という芝居のおかげだ。
ただし。
僕は手話をすべて忘れ
筒井は今でもジャグリングができる
という大きな違いがあるが。
「乗馬とかはやられるんですか?」
「いえ。興味はあるんですがやったことはないですね。僕が時代劇俳優としてテレビで重宝され始めたら通います」
「なるほど。では、撮っていきますね。まずはカメラ目線でお願いします。今回は何も考えないで、スッとこちらを見てください」
何も考えないで良いのなら、そんな楽なことはない。
余計な気持ちを作らなくてすむし。
僕はただカメラを見つめた。
シャッターの音が響いた。
「……岡田さん、射撃とかやってます?」
「いえ。やってませんけど」
「そうですか。いやね、目力がすごいから、何かを狙うことが多いのかと思ったんです」
……ちょっと待ってください
よく「人殺しの目をしてる」とは言われます。
それは認めます。
ですが、今は少なくとも、何の力も入れないで、何も考えないで、ただカメラを見てるだけですよ。
まるでスナイパー扱いじゃないですか?
それは上川隆也先輩の特許であって、僕が人を始末するときは別の武器を用います。
「サバゲーとかはされるんですか?」
「それも興味はありますけどやったことはないですね」
「僕はやったことあるんですけど……。岡田さん、向いてますよ」
「どうしてですか?」
「あれって最終的には“精神力の差”みたいなところがあるんですよ」
「へぇ」
「岡田さん、精神力強いですよね?」
「いえ、どちらかと言えばガラスのハートの持ち主だと自負していますが」
「いやいや。それはないです」
「どうしてですか?」
「だって、カメラを覗いててね、なんか、殺されるような気がしますもん」
「……」
*
僕は自問自答した。
「なぜ、カメラをスッと見ているだけなのに、人殺しの目になってしまうのか?」
明確な答えは浮かんでこなかった。
モヤッとした気持ちでトロンボーンを吹いた。
すると。
近所で飼われているらしい犬が、こちらの建物に向かって「ワンワン!」と吠え始めた。
僕はやっぱり写真撮影が苦手なのかもしれないと思った。
*
『無伴奏ソナタ』のパンフレット、お楽しみに。
では、また。