ども、本日は更新の岡田達也です。

 

 

 

実家に帰ってまず最初に掃除機をかけた。

 

父・隆夫さんは言った。

「そんなに汚れとるかえ? たまにほうきがけはしとるで」

 

それは認める。

認めるが、たまには掃除機を利用したほうが良い。

掃除機は飾りじゃない。

 

「掃除機は重いけなぁ。このほうきは軽くてええで」

そう言って百均で買ったらしい、小さな小さな黄緑色のほうきとちりとりのセットを見せてきた。

いわゆる机の上で使用するようなサイズだ。

ちなみに我が家のリビングは10畳ある。

 

「……」

 

僕は思った。

キレイ好きだった母・秀子さんは、今ごろお空の上で歯ぎしりしているに違いない、と。

 

 *

 

次に便所掃除をした。

 

父・隆夫さんは言った。

「そんなに汚れとるかえ? キレイに使いよるはずだけどな」

 

ここで文句をいうと機嫌を損ねるだけだ。

遠回しに、遠回しに。

「うん。それはわかるけど、さすがに色んな所がね」

 

「見えるところはキレイにしとるで!」

 

「だから見えないところの話だって。おばちゃんも泊まりに来るわけだし、一応ね」

 

「……そんな見えんところまで。オマエはよっぽどトイレが気になる人間なんだなぁ」

 

一瞬、イラッとした。

だが、堪えた。

このレベルで怒っていたら身が持たない。

 

隆夫さんのことは50年の経験で学んだはずじゃないか。

こういう人なのだ。

 

僕は歯ぎしりしながらトイレ掃除をした。

 

僕は思った。

キレイ好きだった母・秀子さんは、今ごろお空の上で目くじらを立てているに違いない、と。

 

 *

 

トイレから出たところで父が呑気な口調で話しかけてきた。

「庭っていうのは草が生えるもんだなぁ」

 

「!」

 

危なかった。

イラッとしたどころではない。

これが年下の後輩なら、打点の高いドロップキックか、パイルドライバーで脳天を打ち付けているところだ。

 

僕は自分の体温を調節してから言った。

「じゃあ、草むしりやったら? お母さんも庭の心配してたし。きっと喜ぶよ」

 

「春になったらやるわい」

 

……もしもし?

今は何月ですか?

4月も中旬ですよ

桜も散りましたよ

今が春でなければなんなんですか?

 

それとも“心の春が来たら”とでも言いたいのですか?

 

僕は会話を止め、庭に出た。

あのまま会話を続けていたら今日の朝刊に僕の顔写真が載っていただろう。

 

僕は黙って草むしりを始めた。


しばらくして。

隆夫さんが上機嫌で話しかけてきた。

「お父さんがやるぶんを残しておかんでええけな(笑)」

 

「……」

 

この人なりのウィットらしい。

冗談を交え、全部やってくれてかまわんよ、と言っている。

いや……

全部やってくれ、と言っている。

 

僕は我が家の屋根を見上げた。

「あそこからムーンサルトプレスを食らわせたら、父の息の根は止まるのだろうか?」

 

だが……

僕がバック宙できないのでギリギリのところで思いとどまることができた。

 

このとき、母の目くじらではなく、僕の目くじらが立っていた。

 

 *

 

部屋の戻ると隆夫さんが言った。

 

「冷蔵庫の中に食べんものがようけ入っとるけな。それ、何とかならんかえ?」

 

 

 

つづく