ども、完結編の岡田達也です。

 

 

 

昨日のつづき。

 

 *

 

でも、何で僕なんだ?

僕が誘拐される理由は何だ?

 

何かあるはず

何かが……

 

僕は頭をフル回転させた。

 

息子が言うのもなんだが……

我が家はけっして大金持ちではない。

 

土産物屋で働く父と

看護婦をしている母と

とても慎ましやかに暮らしている。

去年まで市営住宅に住んでいたけど

今年、晴れて小さな小さな一軒家建てたばかりだ。

母・秀子さんはなぁ、口癖みたいにして「うさぎ小屋みたいな家」だって言ってるんだぞ。

それほど小さいんだぞ!

それだって30年ローンだぞ!

 

だから父・隆夫さんがなぁ、ギャンブルで小銭を稼いでは嬉しそうな顔をしているんじゃないか!

そんなレベルだぞ!

しかもな!

その数年後にはサラ金で首が回らなくなるんだぞ!

(……しまった。要らない情報だった)

 

山も持ってない

土地も転がしてない

掛け軸も、茶器も持ってない

薬も、臓器も売買してない

徳川埋蔵金の話も我が家にはやってこない

そんな、ごく普通の家なのだ。


結論は……

「我が家にお金はない」だ!

 

身代金なんて、どこをどう押しても出てくるわけないじゃないかっ!

 

「お金持ちの子にすればいいだろ!」

ダメ元で、そのようなことを言おうとしたとき……

 

バックミラー越しにこちらを見ていた殿下が言った。

「きみ、岡田達也って名前か?」

 

僕の左胸には名札があった。

しかも時期は9月の初め

2学期の学級委員を任されていた僕は

その証である“赤いバッジ”も胸に付けていた。

 

なんだかわかならないが

殿下の声が不安そうなのを察知した。

 

僕の直感が働いた。

“その名札と、学級委員のバッジを見せつけたほうが良いのではないか?”

僕は胸を張って突き出してみせた。

 

殿下が無線でやり取りを始めた。

何をしゃべっているのかはわからない。

僕はゴリさんに押さえつけられたままだ。

 

しばらくして、車は鳥取県警の前に到着した。

 

「……警察?」

 

なんでだ?

誘拐しておきながら警察?

僕は何も言ってないが、すでに自首しようというのか?

見上げた心意気だ!

 

僕の頭の中も十分に混乱している。

 

と……。

 

「岡田くん、すまん。人違いだった」

殿下が運転席で頭を下げた。

 

「?」

 

「大変申し訳無い」

ゴリさんも深々と頭を下げた。

 

「?」

 

「さぁ、戻ろう」

殿下が車を発進させた。

 

今なら書ける。

面白可笑しく書ける。

 

だが。

小学6年生の身に起こった出来事としてはインパクト十分だろう。

 

僕は、

この時点で、

ぐったりと、

疲れていた。

 

 *

 

『まるさわ』に戻ってきた。

 

殿下とゴリさんは僕を丁寧にお店の中までエスコートしてくれた。

そして、店の奥で新聞を読んでいる隆夫さんに近づき、深々と頭を下げた。

「お父さん、我々はこういう者です(手帳を見せる)。大変申し訳ございません。人違いでした」

 

何だよそれ?

何が人違いだよ!

こんな恐ろしい思いをさせておいて!

 

「誤って済むなら警察はいらないよ!」

そんな小学生ギャグを言ってやろうかと思ったら

隆夫さんが驚くべき言葉を口にした。

 

「いえいえ、よくあることですから」

 

「……」

 

隆夫さんは何もわかってないのだ。

事態を何も把握していない。

僕が拐われたことすら気付いてない。

 

僕はこの人ではダメだと思い

家に帰ってから秀子さんに事の顛末をすべて話した。

 

 *

 

これが僕の“刑事さん”人生初体験。

 

正確には……、手錠はかけられなかった。

だけど、面倒くさいので、僕はこのことを話すたびに「誤認逮捕」と言っている。

まぁ、それくらいのことは許してもらえるだろう。

 

笑い話にして元を取らなければ割に合わない。

 

ねぇ

そう思いません?

 

 *

 

さて。

この場合

「アンフェアなのは誰でしょう?」

 

 

 

では、また。

 

 

 

追伸

 

翌朝。

我が家に届いた新聞に、大きくこんな記事が書かれていた。

『ホテルニューオータニで宝石泥棒 犯人は中学二年生』