ども、前科者の岡田達也です。

 

 

 

『アンフェアな月』

稽古が進んでいる。

 

僕が演じるのは

「林堂航(りんどうわたる)」

という刑事。

しかもただの刑事じゃない。

「捜査一課特殊班」に所属しているらしい。

 

特殊班というのは

「高度な科学知識・捜査技術に精通し、大規模な業務上過失事件やハイジャック、爆破事件、人質・誘拐事件などに対処する」

そんな優秀なチームだそうだ。

 

残念ながら普段の僕は

「高度な科学知識」にも精通していないし

「高度な捜査技術」も持ち合わせていない。

 

強いて挙げるなら

「高度なスロットの知識」と

「高度な目押し技術」なら持っているが。

 

……

……

 

そんな僕が刑事を演じるのだから演劇というのは面白い。

 

 *

 

何度か書いてる話なので知ってる人も多いと思うけど

僕が初めて刑事さんのお世話になったときのことを書こう。

 

「お巡りさん」じゃない

「刑事さん」にお世話になったときの話だ。

 

 

僕が小学6年生(11歳)のとき。

 

僕の父・隆夫さんは

鳥取駅の真ん前にある『まるさわ』という土産物屋で働いていた。

(現在の『ミスタードーナツ』がある場所)

そのお店は僕の父と、その妹(僕の叔母)

それ以外に店員さんが5人ほどいる、そこそこ大きなお店だった。

 

夏休みだった。

暑い日だった。

 

たまにお店を手伝っていた僕は、その日もお店に顔を出していた。

どういうわけか、その日はお店が空いていた。

 

隆夫さんはお店の奥で丸いすに座って新聞を読んでいた。

 

店員さんは品薄なお菓子を補充したり

包装紙の準備などをしていた。

 

僕は

ガラガラの店先で

真ん前の鳥取駅を見ながらボーッと突っ立っていた。

 

と……

 

突然、後ろから羽交い締めにされた。

 

!!!!!

 

驚いたなんてもんじゃない。

何が起こってるのか理解できなかった。

 

とにかく今

背広を着た大人の男に

覆いかぶさるように羽交い締めにされているのは間違いない。

そして後ろからプレッシャーをかけられて

どんどん前に歩かされている。

 

えっ?

えっ?

 

えええええっっっっっ?????

 

何なんだ、この状況は?????

 

ただ、その瞬間、

こんなことを思ったことだけ覚えている。

 

白昼

駅の真ん前に位置する

こんな人通りの多い場所で

堂々と誘拐なんかするわけないよな

 

でも……

だとしたらこの人は誰なんだ?????

 

男はどうやら目の前に停めてある車に僕を乗せたいらしい。


危ない。

あの車に乗せられたら、僕の人生は終わってしまう。

『Gメン75』や『太陽にほえろ!』では

誘拐された人質は無事に解放されていたが

あれは所詮ドラマじゃないか。

 

これは、現実だ!!!!!

 

僕は「助けて!」と叫ぼうとした。

 

と、その直前……

 

僕の右側からもう一人の背広にサングラスの男が姿を表し

僕の口を手で塞いだ。

 

!!!!!

 

驚いたなんてもんじゃない。

羽交い締めされてる上に

口を塞がれるなんて!

 

僕は体を硬直させ、目一杯の抵抗を試みた。

とにかく暴れるしかない。

 

それにしても……

どうして行き交う人達は、誰も助けてくれないのだ?

みんな不思議そうな顔でこちらを見ているだけだ。

誰か一人でも「放しなさい!」と言ってくれる人はいないのか?

 

そもそも僕の父親は何をしてるんだ?

息子がさらわれているんだぞ!

 

心の中では言葉が出ても

それが口に出せない。

 

抵抗も虚しく、僕は車の後部座席に放り込まれた。

 

「大人しくしろっ!」

背広男1が叫んだ。

 

 

僕は人生の終わりが来たのを感じた。

 

 

 

つづく