ども、駆け落ち未体験の岡田達也です。

 

 

 

昨日の続き。

 

 *

 

「私、その人と駆け落ちして旭川に来たの」

 

どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんんんんんんんん!!!!!

 

僕の中の太鼓が鳴った。


かけおち?

カケオチ?

駆け落ち?

 

そんな大胆な行動を取ったのか?

この、小柄で、可愛らしいお婆様が!

 

僕は心の中で叫んだ。

「トメさ~ん!トメさ~ん!トメさ~ん!」

 

たぶん彼女はそんな名前ではない。

だが、思わず、思わず、そう叫んでしまった。

そして、続けざまにこう思った。

「そ、そんな面白そうな話、今からですか!? あそこに旭川空港が見えてますけど! 間に合いますか? 僕は最後まで聞けますか? 回収できますか!」

 

これが役者の悲しい性だ。

面白そうな話はしゃぶり尽くしたい。

味わい尽くしたい。

それこそが、この先の岡田達也を形作る原料になるのだから。

 

「私ね、若い頃、田舎の田舎の田舎に住んでててね。で、そこで好きな人ができたんだけど」

 

トメさん

若干マキでお願いしますね

 

「私、こう見えて実は良いとこのお嬢様だったのね。3人兄妹の末っ子で甘やかされて育ったんだけど……」

 

いいですよ~

その背景、グッドです

 

「だから結婚を許してもらえなくて。で、その男の人と駆け落ちしてきたの。旭川に」

 

完璧な滑り出しです

 

「ところがね……」

 

「どうしました?」

 

「その男がダメな男でね。全然働いてくれなくて!」

 

運転手さん

バスのスピード落としてもらえませんかね

雪道ですからね

ゆっくり行きましょう

 

「本当にダメな男でね。働かないから家にお金をまったく入れてくれなくて。私、お嬢様だったから、お金とご飯には困ったことがなかったのよ。だから辛くて、辛くて」

 

「でも、好きになっちゃったんですよね?」

 

「そうなのよ! あれ、なんでダメな男を好きになっちゃうのかしら! 不思議よね~(笑)」

(と言いながら僕の体をバシバシ叩く)

 

「で? どうなったんですか?」

 

「駆け落ちで家を出たものだから、親にも勘当されちゃって。実家に戻れば食べる物も、お金もあるの。だから本当は頼りたいけど……。帰れなかった」

 

あぁ、ヤバイヤバイヤバイ

旭川空港が近付いてる……

 

「で、私も働いたことなんてなかったんだけど、仕方がないから旭川で水商売を始めたの」

 

……飛行機に乗るの止めて富良野まで一緒に行くか?

 

「それぐらいしかできなかったのよ。だって、働いたことなかったんだから!」

(トメさんはこのあたりから、ことあるごとに僕の体を叩きながらしゃべっている)

 

「ですよね~。それで?」

 

「何年か頑張ったんだけど、さすがに私も疲れ切って、その男と別れたの」

 

「別れるのも大変だったんじゃないですか?」

 

「……修羅場だったわ」

 

このお話、倉本聰先生あたりに売ってみます?

『北の国にある旭川から』ってタイトルでドラマになるかもしれませんよ

 

「あれ? あそこに見えるの空港かしら? もう着くのね」

 

「そんなことより、別れてからはどうなったんですか?」

 

「女一人、水商売をしながら、なんとか食べていたの。で、何年かして、札幌に住んでる姉から連絡が来てねーー」

 

「はい」

 

「実家の父が亡くなったって。私は勘当されて連絡を取ったことが無かったから、実家の様子はまったくわからなくて」

 

逆にトメさんに、旭川空港で一度降りてもらうって手もあるな

 

「で、それを機に姉が「札幌においで。一緒に住もう」って言ってくれて。「今まではお父さんがいたから言えなかったけど、お兄ちゃんも私もずっとあなたのことが心配だったのよ。あんな男に騙されて。腹が立つし、悔しいし。でも可愛い妹だから」って。嬉しかったわ。嬉しくて嬉しくて、泣いたわ」

 

あぁ!

なんてこった!

バスが旭川空港の駐車場に入ってしまった!

あと何秒残ってるんだろう?

 

「それで?」

 

「札幌に行って35年住んだの。そしたら、実家の兄から連絡があって。母も亡くなったから……」

 

ここで無情にも「旭川空港到着」のアナウンスが流れた。

 

「あら、着いたわね。いやだ、私ったら! ごめんなさいね、つまらない話を長々と聞かせて(笑)」

(と言いながら僕の体を叩く)

 

「とんでもないです! お会い出来て良かったです! 旭川がますます好きになりました」

 

「あら、そう? お兄さん、聞き上手だから(笑)」

 

僕は心の中で尋ねた

「これ、いつの日か達也汁に書いても良いですかね?」

もちろん返事はない。

 

「それにしてもこのバス、通路が狭いわよね」

 

 *

 

トメさん、その後、どうなったんだろう?

どんな人生を歩んだんだろう?

 

聞けなかったけど……

結婚はしたんだろうか?

どうして今は富良野に住んでいるんだろう?

駆け落ちしたことは後悔してるんだろうか?

 

聞きたいことはいっぱいあった

 

でも

いいや

 

白内障の手術も無事に終わって

こんなに元気に話してくれて

いっぱい笑って

いっぱい僕の体を叩いてくれて

それで十分。

 

楽しい話をありがとうございました。

 

 

いつかまた富良野に行く機会があったらトメさんを探してみよう。

 

 

 

では、また。