ども、今20万円あったら海外旅行に行きたい岡田達也です。
昨日の続き。
*
父・隆夫さん
母・秀子さん
二人とも補聴器を購入して“聞こえる生活”を送っているものと信じていた。
ところが……
今から一年ほど前
帰省したときのこと。
父・隆夫さんが話しかけても返事をしない。
大きな声で話しかけると、やっとこさ「ん?」とこちらを振り向く。
どうやら補聴器を装着していないようだ。
それが数日続いた。
嫌な予感がした。
「お父さん、補聴器はどうしたの?」
「あぁ……、補聴器なぁ」
「最近付けてないよね?」
「あれな、失くしただが」
「ええっ~~~!!!」
「だって小さいけなぁ」
「いやいやいやいや!」
「みんなも言いよったけどな、補聴器、よう失くすらしいで(笑)」
「……」
以下、声には出さなかった僕の心の声である。
「失くした?失くした?失くしただとぅ?」
「そりゃあ小さいよ!補聴器は小さいよ!補聴器がヘッドホン並みの大きさだったら邪魔だろうが!誰も付けたがらないに決まってるよ!『ゴールデンスランバー』のときの三浦剛みたいになったらどうすんだよ!」
「みんな?みんな?みんなって誰だよ!そいつらまとめて連れてこいよ!説教してやるよ!つ~か、みんなが失くすからあんたも無くして良いって法律は日本のどこにもないんだよ!」
「なに笑ってんの?おかしくねぇよ!ちっともおかしくねぇよ!20万近く払ったんだろうが!お父さんはいつから富豪になったんだよ?あんただって昔は藤村富美男さんみたいにパチンコで身を滅ぼした人間だろうが!その後始末したのは誰だよ?俺とお母さんじゃね~か!」
まぁ、手短に言えばこんなようなことを思った。
だが。
僕は知っている。
これを口にした瞬間、隆夫さんが拗ねることを。
大人気なく心を閉ざしてしまうことを。
あくまでも優しい口調で訊いた。
「……買い換えないの?」
「ええ!ええ!」
強い口調だった。
「もうええ!」
しっかりとはっきりと否定された。
まるでハエでも追い払うかのように手のアクションまで付けて。
「いや、だってお医者さんの話がーー」
「いらん、いらん!また失くすし!」
「(……失くすこと前提なのか?)」
「20万もするし!」
「(……だったら探せよ)」
「補聴器は買わん!}
「(……逆ギレ?)
秀子さんはあきらめた顔をして、僕を振り向き静かに頷いた。
つづく