ども、ドラフト外の岡田達也です。

 

 

 

昨日、東京に戻ってきた。

 

実家にいるといろんな仕事を頼まれる。

もちろん、父親が82歳、母親が78歳と高齢なので、何かと動くのも大変だし、頼まれるのも理解できる。

僕もできるだけのことはやってあげたい。

が。

いくらなんでも……、と思うことがある。

父親・隆夫さんは元々家のことを何もやらない人だった。

やらないにもホドがある。

“天邪鬼な発言”には力を入れるくせに、“働くこと”にはトンと興味を示さない。

 

昨日の朝だった。

 

「帰る前に何かやっておくことはある?」

僕は二人に尋ねた。

 

ベッドの足の下にクッションを入れること

外れたアンテナの修復

電気ヒーターの人感センサーの説明

母親の携帯の機種変

クロスワードパズルの答え探し

……頼まれた仕事は一通り済ませたはずだった。

 

「あぁ、あとな、あの時計の電池を交換してほしいだが」

隆夫さんが指差した。

 

居間に飾られた大きめのデジタルの壁掛け時計。

こいつがまた不思議なやつで、時報が鳥の鳴き声になっている。

0分になるとウグイスだったり、ムクドリだったりがピーチクパーチク鳴く。

 

……正直、とてもうるさい。

 

しかし、隆夫さんはいたく気に入ってるらしく、この時計を大切にしている。

 

「え?だってまだ動いてるよ。電池切れるようには見えんけど」

 

「ええが、ええが、もうすぐ切れるかもしれんけぇ。変えとくだが」

 

デジタル時計が、ちゃんと、動いているのだ。

無理に電池を替える必要はない。

交換する意味がさっぱりわからない。

 

「切れてからでええが」

 

「もうすぐ切れるけ」

隆夫さんは半ギレだ。

 

こうなると後に引かない。

どうして僕が怒られなくてはいけないのか、まったく納得いかなかったが、僕は立ち上がり時計の裏面を見た。

 

「単2が二本だ。これを取り替えればすぐだ」

 

「替えてくれ」

 

「……」

 

いくら82歳でも電池交換くらいはできるだろうに。

 

僕がフタを外そうとしたときだった。

「電池、替えたら時間が変わってしまわんか」

 

そりゃ、そうだ。

電池を外せば時計は止まる。

子供でもわかる理屈だ。

 

「そりゃ、止まるよ」

僕は言った。

 

「元に戻るか?」

隆夫さんは不安そうに訊いてきた。

 

どこの世界に、電池交換したら二度と時間が合わせられない時計が存在するというのだ?

 

「これは電波時計だから、交換してしばらくしたら元に戻るはずだ」

 

「そうかえ?」

 

……今までどうやってたんだ?

 

僕は電池を交換した。

時計が妙な表示を始めた。

とりあえずカレンダーが2001年の1月になっている。

 

「ほら、いけんが!変なことになっとる!今は2017年だ!」

隆夫さんが慌て始めた。

 

知ってる。

今が2017年なのは知ってる。

僕もだいぶイライラしてきた。

 

「ちょっと待ってって」

僕は背面にある「電波調整」のボタンを押した。

 

「もういけんで!やっぱり電池を替えたらこうなるでないかと思っとっただ!」

 

……じゃあ、なんで替えたんだ?

替える必要のない電池を替えさせて、慌てふためく父親を見ながら、僕は溜め息をついた。

 

「もう鳥が鳴かんだろうか?」

 

……知らん

いっそのこと壊れてしまえばいいのに

 

約2分後。

時計は正確な日付と時刻を表示した。

 

「ありゃ、ちゃんと戻っとるな」

隆夫さんは満足そうに頷いた。

 

 

僕は、たかだか、電池交換しただけで、ドッと疲れた

……ような気がした。

 

 * * *

 

白い雲がかかってるのが富士山頂。

 

見えますか?

 

 

 

では、また。