ども、紀伊國屋ホールで何度目かの初日を迎える岡田達也です。

 

 

 

『ポセイドンの牙』

昨日は場当たり。

 

「場当たり」とはテクニカル・リハーサルのこと。

劇場に入って初めて音響さんや照明さんといろんなキッカケを合わせていく大切な作業。

これがまた恐ろしく時間がかかる。

『ポセイドンの牙』は2時間強のお芝居だが、昨日の場当たりは12時にスタートして21時に終わらなかった。

9時間では足りないぐらい大変な作業ということだ。

スタッフさんたちはスキあらば手直し・修正したい。

だから少しでも時間が欲しい。

 

役者の芝居に時間を割いてる場合ではない。

 

 *

 

昔々のこと。

僕が初めて紀伊國屋ホールの舞台に立ったのは『グッドナイト将軍』というお芝居だった。

 

あの、演劇界の聖地、紀伊國屋ホール。

あの人やあの人やあの人など、あこがれの演劇人たちが立った舞台に立てる。

僕の心も弾んでいた。

……はずだった。

 

頼重(よりしげ)という武将の役をもらった。

(後に私は「なめしげ」と呼ばれるようになるけど、その話はまた今度)

 

一生懸命やっていた。

やっていたつもりだった。

やっていたはずだった。

 

しかし、本人の意気込みと他人の評価が一致するとは限らない。

 

どうやら私の意気込みは誰にも何も伝わっていなかったようだ。

特に演出の成井さんには微塵も伝わってなかった。

 

あるセリフを言った瞬間だった。

「おいっ!岡田達也!そのセリフ、もういっぺん言ってみろっ!」

何かが逆鱗に触れたようだ。

成井さんの怒声が飛んできた。

僕はもう一度そのセリフを言った。

「ちがう!もう一回!」

 

ま、まずい……

同じシーンに出ている西川浩幸先輩、上川隆也先輩も待ちになってしまった。

スタッフさんも先に進めない。

自分が場当たりを止めてしまっている。

 

こ、これは……

間違いなくピンチだ!

(こういう人のことを「場当たりストッパー」とこの業界では呼ぶ)

 

さすがに時間がかかりすぎていることに成井さんも気付いたのだろう。

「もういいっ!袖に行ってそのセリフを100回練習してこいッ!」

 

「ハイッ!」

僕は大きな声で返事をして、袖に駆け込みそのセリフを繰り返した。

 

真面目に

何度も

数を数えながら……

 

場当たりは進んでいた。

 

マイクを通して成井さんの怒声が再び聞こえてきた。

「お・か・だ・だ・つ・や~!」

 

そう。

僕が袖でセリフを繰り返している間に僕の出番がやってきてしまい、気づかなかった僕は登場しなかったのだ。

 

紀伊國屋ホールは修羅場とかした。

 

 *

 

このように、場当たりで役者が時間を割いてはいけない。

もちろん、場当たりは役者のものでもあるが、何よりスタッフさんのためのものだ。

 

若い俳優さんたちよ

けっして私のようになってはいけない。

ちゃんと準備して、周りの方々に迷惑をかけないように場当たりに臨むように。

 

 

 

では、また。