ども、DNA鑑定を受けてみたい岡田達也です。
父の日が近いらしいことは風のうわさで知っていた。
毎年、そんなに力を入れて何かをしているわけではないが、ちょっとしたものをプレゼントしていた。
さて、今年は何にしようか?
そんなことを考えているときだった。
メールが届いた。
父・隆夫さんからだった。
「先日誕生日にお祝いをもらい、父の日はお祝いは結構です。これからもクロスも尋ねることが度々ありますので祝いはなしにしましょう。父」
……ちょいちょいおかしい。
添削しよう。
「先日、誕生日にお祝いをもらったばかりなので、父の日のお祝いは結構です。その代わり、これからもクロスワードで協力してもらうことがあると思うのでよろしく。父」
僕のセンスだとこうなる。
いや、自分でもわかってる。
この日記だって誤字脱字、文法間違い、助詞間違い、誹謗中傷、失礼千万だらけなので、人の文章をとやかく言う権利など無いのだが……。
まぁ、いい。
話を戻そう。
父も高齢だ。
まだまだ元気とは言え、あと何回お祝いしてあげられるかわからない。
子供の頃はさんざん迷惑をかけてくれた父だが、すべてを水に流してお祝いしてあげたい。
どれ、久しぶりに直接話してみるか。
電話をかけた。
「達也だけど」
「あぁ、どうした?」
「いや、本当に何も欲しいものは無いの? 高価なものは無理だけど、何かちょっとしたものがあるならリクエストしてよ」
「いや、何もいらんわいや。もう歳だけなぁ」
「帽子は? 前にあげたやつ、もうくたびれているんじゃないの? 新しいのは欲しくないの?」
「帽子なぁ。帽子より髪の毛が欲しいなぁ」
「……」
「ま、帽子はええわい」
「靴は? これも傷んでるんじゃない?」
「あぁ、もうボロボロだで」
「じゃあ靴にしようよ」
「靴を貰うと歩かないけんような気がするが」
「それでいいよ。歩きなよ」
「歩くのしんどいだが」
「……」
「歳だけな」
「……」
「ま、靴はええわい」
「だったら――」
「あんなぁ、歳を取ると欲しいものが無くなるだが」
「(えぇ!? あなたの言葉とは思えませんよ)」
「人間、無欲になるもんだな」
「……」
口は達者な方だと自覚していた自分だが言葉に詰まった。
というか口が開いたが音にならなかった。
心の中はこんなに動いていたのに。
「おいおい、おいおい! どの口が言ってんだよ! 物欲の塊みたいな人だったじゃねーか! 誰だよ、子供だった僕にパチンコ屋で玉を拾わせてたのは? 誰だよ、子供だった僕を雀荘に連れて行って麻雀牌を磨かせてたのは? 誰だよ、子供だった僕をノミやに連れて行ってたのは? すべては楽して金を稼いで、物欲を満たすためだろーが!)」
「歳を取ると、人間、無欲になるもんだな。わっはははは」
隆夫さんは同じフレーズをリフレインして、なぜだか笑った。
ここで心優しき息子ならそう言われながらも何かを送るのだろうが、僕は違う。
「わかった。じゃ、今年は無しね。欲しいものが見つかったらいつでも言って」
そう言って電話を切った。
そしてなぜだか
「この人はとっても長生きするんじゃないだろうか?」
という一抹の不安……
間違えた、
喜ばしさを感じた。
*
というわけで、今年は何も送りません。
僕のせいじゃないです。
たぶん。
きっと。
では、また。