ども、アイドルを暴漢から助けた経験はない岡田達也です。
東京は朝から雪。
そんな中、大きな稽古場に移動しなければならない。
「ついてないな~」と独り言が出た。
稽古場移動の際、僕はトラックの運転を担当する。
トラックと言っても2tの箱車だが。
これは、僕がキャラメルボックスに入団する前、半年ほどトラックの運転手をやっていた経験があるからだ。
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大学を出た僕は「役者になるため」ではなく「東京の街を堪能するため」に東京に来た。
一応表向きは、大学の先生に言われた「おかだくん、やりたいことが無いのなら役者を目指したら?やるなら舞台をね」という言葉に従った形での上京だった。
僕にその気はまったくなかった。
そもそもどうすれば役者になれるのかがわからない。
だから最初は吉祥寺にある小さな小さな会社で会社員として働いていた。
だが。
先生のことは大好きだったので、完全な嘘にはしたくなかった。
一応、形だけでもと考え芝居を観始めた。
これがなかなかに面白い。
当たりハズレはあるけれど、それまでお芝居を毛嫌いしてた自分には驚きの連続だった。
そうこうしているうちに半年経った。
その頃から自分の中でちょっとした変化があった。
「絶対に無理だ。絶対に役者になんてなれるわけがない。だけど……。万が一、ひょっとして、何かの間違いで、偶然の連続で、役者になれたら面白い人生が送れるかもなぁ」と。
そして
「噂では、芝居をやってる人たちなんて貧乏のどん底みたいな生活してるらしいぞ。だったら役者になったときのためにちょっとでも貯金があったほうが良いだろうな。いやいやいや、どうせなれない。なれないけど、お金を貯めておくのは悪くないぞ。2年もしたら鳥取に帰るわけだし。じゃあ、僕なんかでも働ける給料の良い仕事を探そう」
これで見つけたのが「ベビー用品をリースする会社でのトラックドライバー」だった。
それから半年後、僕は神さまの手違いでキャラメルボックスに入団してしまう。
劇団というのは車やトラックでいろんなものを運ぶ。
大道具も小道具も音響機器も照明機材も。
それを上手く積み込んで車を走らせるというのは、「トラックが運転ができてしかもテトリスが得意」というある意味の特殊技能だ。
なので非常に重宝される。
トラックを運転していたのはわずか半年だったけど、偶然にもあのときの経験が活かせる世界だった。
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ここだけの話……
僕がこの世界で長いこと生き残れたのは俳優としての力量よりも、トラックドライバーとしての技能が高かったからだ。
(内緒ですよ)
だから今日は活躍しなければならない。
でも……
「雪か~!ついてないな~!」
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みなさんも足元にご注意を。
では、また。