ども、つぶやき達也こと岡田達也です。
苦しい時期がやってきた。
日本には四季がある。
僕もいつだって季節だったり、そのかわり目だったりを感じて生きていたい。
だが……
俳優にはもう一つの季節というか、時期というか、時間が存在する。
「台本を覚える期間」と「そうでない期間」だ。
つまり「四季」とは別に「二季」も持っている。
この「台本を覚える期間」に突入すると、生活のほとんどをおざなりにして暮らし始める。
ひたすら、ただひたすらに台本とにらめっこすることになる。
そしてブツブツとつぶやく生活が始まる。
これがよろしくない。
*
僕の台本の覚え方は少々変わっている。
まずは静かな部屋の中で、ソファに座ってひたすら読む。
そしてある程度「入ったかな?」と思ったら、今度は台所に移動して、ウロウロと歩きながらセリフを言ってみる。
これでセリフが出てくるようになったら次は外に出かける。
喫茶店やファーストフード店、イートインコーナーなど“ちょっとうるさい場所”に行って、そういう雑音の中でもセリフが出てくるか試してみる。
誰にも気付かれないくらいの唇の動きと、誰にも聞こえないくらいの音量で。
*
昨日、コンビニのイートインコーナーに出かけた。
カウンターの端に若い男の子が座っていた。
イヤホンをして、スマホの動画を見ている。
と、突然その子が体を震わせて、声を上げないようにして、笑いだした。
……こ、こわい
つーか、気味が悪いわ
何かお笑いの動画でも見ているのだろうか?
僕は一つ席を挟んで座り台本を開いた。
と、またその子が大きく揺れた。
当然、声を出さないようにして笑っているのだが、それが逆効果でこっちがビックリしてしまう。
引くわ。
僕は彼に冷ややかな目を向け、惑わされないように台本に集中し、頭からセリフを返し始めた。
最初はこうで、次はこうで
あんなかんじで、こんなかんじで
畑中智行を追い込むように
えーっと、次の単語はアパートだったかマンションだったか?
えーっと、次のセリフは……
10分くらい経っただろうか?
それとも30分か?
男の子からの冷たい視線を感じて僕は止まった。
横目で彼を見る。
いつの間にかイヤホンを外し、スマホも見ていなかった。
その代わり僕のことを“見てはいけないものを見るような目”で見ていた。
はっ!
僕はいつの間にか、つぶやくのではなくハッキリと、セリフを口にしているではないか!
しかも身振り手振りまで付けて!
ちょいとネタバレになるが……
つぶやいたセリフの一つが「私はキミに自首する機会をあげよう」だった。
想像してほしい。
隣りに座った中年男が、壁に向かって手を差し出し、険しい顔で「私はキミに自首する機会をあげよう」と言ってるのだ。
僕なら引く。
ドン引きで引く。
2キロは引く。
実際、男の子は席を立って行ってしまった。
……
……
*
もしも、どこかでつぶやいてる僕を見かけても驚かないでください。
さぁ、今日もどこかでつぶやこう。
では、また。