ども、メジャー未経験の岡田達也です。



昨日、キヤマさんの美術の話を書いていたら思い出したお話。
『また逢おうと竜馬は言った』とは何の関係もないけれど。
それでもちょっとだけ書き記しておきたい話。

よろしければお付き合いください。

 *

キヤマさんは古き良き演劇人だった。
それでいて小劇場界のスーパースターだった。
僕なんかはまだまだ小僧でしか無く、対等に口を利くなんてとんでもないことだった。

なんだけど。
キヤマさんは野球が好きな人だった。
僕も負けじと野球好き。
だからだろうか?
こんなハナタレ小僧にもかかわらず、とても可愛がってもらった。

あるとき、キヤマさんに言われた。
「岡田くん、いつかさ一緒にメジャーリーグを観に行かないか? ニューヨークでもロスでも良いからさ! 男二人でアメリカ旅行ってのも悪くないぜ!」

こんな嬉しいお誘い、断る理由がない。
「本当ですか? じゃあ、必ず必ず、二人のスケジュールが合うときに行きましょうね!」

これはリップサービスでも何でもない。
本気でそう思ってた。
だってキヤマさんが真剣に誘ってくれていたのがわかったから。

正直に言うと……
僕には海外に行くお金なんて無かった。
でも、借金してでも行くつもりだった。
それが、お世話になってるせめてもの恩返しのつもりだった。
(だったら芝居で返せよ)
ただ、お互いに忙しく、なかなかそんな時間が見つけられずにいた。

そうこうするうちに、なんと、メジャーの開幕戦を東京ドームで行う、という事件が起きた。
2003年の3月の末だった。
キヤマさんが言った。
「岡田くん、東京ドームどうする?」
僕は稽古中でどうにもならなかった。
「すみません……。行きたいのは山々なんですが」
「そうか。じゃ、一人で行くか。申し訳ないんだけどチケット手配できないかな?」
僕は楽屋での態度はメジャー級だが、残念ながらメジャーリーガーに知り合いはいない。
だけど他ならぬキヤマさんの頼みだ。
コネは無くとも何とかネットで予約を入れて内野の良席をゲットした。

僕はそれをキヤマさんにプレゼントしようと思った。
ところが……
そのことを伝えるとたいそう怒られた。
「バカなこと言うな! ただでさえチケットを用意してもらってるのに、ご馳走になる筋合いはない!」

 *

次の公演のとき。
キヤマさんがニコニコしながら僕を呼びつけた。
「岡田くん、これ、やるよ」




これは、その席を予約した人にプレゼントされた腕時計だった。
野球のチケットに腕時計を付けるなんて、とんでもない太っ腹だなぁと思ったのを覚えている。

僕は恐縮した。
「いやいや! これはキヤマさんの記念品だから受け取れませんよ!」
「いいんだよ! チケットを用意してもらったお礼だよ! もらってくれよ!」
僕はありがたく頂戴した。

 *

しばらくして。

その腕時計を見た後輩がたいそう羨ましがった。
オマケにその後輩は腕時計を持っていなかった。
僕は普段、腕時計をしない。

ふむ。
貰い物だけど、これをあげようかな?
一応、キヤマさんに相談しておこう。
「キヤマさん、あの腕時計を後輩にプレゼントしてもいいですか?」

これを聞いたキヤマさん、表情が変わった。
「えーっ! ちょっと、それは……。だって、その時計はオレと岡田くんの友情の証みたいなもんじゃない! オレはキミに持っててほしいんだよ!」

いやー、怒られた。
芝居で怒られたことは一度もないけど、このときばかりは怒られた。
そして、そのことがとても“キヤマさんらしくて”怒られながらも嬉しかった。

 *

2006年2月。
キヤマさんは肝臓がんで亡くなった。

結局、男二人旅は叶わなかった。

もしも……
と想像する。

メジャーのボールパークで、
二人でビール片手に野球を観たらどんなに楽しかっただろう、と。

 *

今も手元に腕時計がある。
僕は腕時計をしないから、この時計もはめたことはない。
なんだけど、キヤマさんの形見だと思って大切にとってある。

 *

さて、今日もそのキヤマさんがデザインした船の上で場当たりです。
さらにはゲネプロです。
忙しい一日です。



では、また。