ども、思い出してしまった岡田達也です。



知り合いからラインが入った。
つくしを見ると思い出す歌があるという。
それがこれ。

「ルルルルールル ルルルルールル
 ルルルールールルールー
 春の風は かけてゆくよ
 ルルルールールルールルー
 ぷくぷく太った木々の芽を
 すいーすいーとなでながら
 おはよう おはよう おはよう おはよう
 春だよ 春だよ」

ご存じだろうか?
『春の風』という歌だ。
明るいメロディと可愛らしい歌詞。
この曲が好きだという人が多いのもうなずける。

僕も良く知っている。
忘れられない苦い思い出と共に……

 * * * * *

僕は小学5年生になるとき明徳小学校から美保小学校に転校した。

今なら言える。
「転校なんて何てこと無いよ。時間が経てばすぐに仲良くなれるよ」と。
が、子供心に転校というのは荷が重かった。
学校生活を4年も経験していれば“コミュニティ”というものが存在することを理解し始める。
ちょうどそれを肌で感じ始めるときだ。
違う集団に飛び込むのはなかなかに勇気が必要だった。
その影響で緊張していたのだろう。
11歳当時、すでに「世渡り上手の罰当たり」の片鱗を発揮し始めていた僕なのに、転校初っ端からイージーなミスを犯してしまう。

最初の授業。
新学期という節目だったので、転校生の僕だけではなく全員が自己紹介をすることになった。
一人一人が立って、名前と、何組から来たのか、趣味などを口にした。
おませな女の子は星座やら血液型も言っていた。

僕はみんなの話を聞きながら傾向と対策を練った。
男の子の趣味は圧倒的に「野球」が多い。
僕も野球は大好きだ。
しかし。
みんなは「好きなチームは巨人です!」と声高らかに宣言していた。
これが僕に二の足を踏ませた。
僕が好きなのは「南海ホークス」だ。
口が裂けても「巨人ファンです!」とは言えない。
ここは野球を避けるべきだろう。
ただ、代わりに思いつく適当な趣味が浮かばない。
焦ってるうちに順番が回ってきた。
僕は立ち上がり話し始めた。

「岡田達也です……」

一体、どんなやつが来たんだ?
転校生は好奇の目に晒される。
あのクラス中の視線は今でも忘れられない。

「明徳小学校から来ました」

どうしよう?
趣味、趣味、趣味……。
あ、そうだ!
これならごく普通じゃないか!

「趣味は読書です」

うん!
これなら当たり障り無いだろう。
完璧なチョイスだ。
ところが……。

「ええーっ!読書かよ!」
「すっげー!かっこいいー!」

冷やかしの声が飛んできた。
し、しまった!
こんな反応が来るのか?
僕は慌てた。
何か、何か言わなくては!

「好きな作家は星新一です」

これが……。
見事なまでに逆効果だった。

従兄弟の影響で読み始めた星新一はショート・ショートで子供の僕にも読みやすく、ちょうどはまっていたところだったので、思わず口にしたのだ。

クラス中がザワザワした。
妙な空気が流れた。

とにかく僕は最初の一手からつまずいてしまった。



つづく