ども、審査員を務める岡田達也です。



作・演出の成井さんから指示があった。
「説明開始までしばらく時間がありますので各自体をほぐしてください」

稽古場の端っこに座っていた受験者たちが、フロアの真ん中に出てきて柔軟を始めた。

僕は芝居の経験もなく、かといって何かのスポーツを真面目にやった経験もなく。
つまりはストレッチ一つとっても専門的な知識はゼロだった。
嘘だと思われるかもしれないが……。
何をどうすればいいのか、さっぱりわからなかった。

隣の人をチラッと横目で見た。
開脚をしていた。
あぁ、あれをマネしよう。
開脚してみた。
……脚が開かない。
180度どころか90度くらいしか開いてない。
その人は胸が床に付いている。
僕は両の手を前に運ぶが、背中は一向に床に近付かない。
や、やばい。
体が硬いのがバレる。
開脚はやめよう。

ちがう人を見た。
とても格好良くスラッとした男性だった。
不思議なストレッチをしていた。
(今にして思えばジャズダンスの典型的なストレッチだったのだけど)
こ、これは……
マネできない!
動きが難しすぎる!
オマケにその男性は、ストレッチの後、鏡の前でターンを始めたではないか!
しかも2回転は確実に周り、3回転目に挑戦している。
ひ、人が回っているぞ!
何のために?
よくわからんが演劇とは人が回らなければならないのか?
口あんぐりである。
僕はもちろんマネしなかった。
というかマネできなかった。
(その人は劇団四季出身の俳優さんだった。だから回っていたのだ。実際、その人はただ1人合格した。残念なことに諸事情ですぐにやめてしまったが)


そこで悟った。
「あぁ、ここは自分の来るところでは無かったのだ……」

そりゃそうだ。
まったくの未経験で、しかも芝居を見始めたばかりで演劇にも詳しくない。
それなのに偶然観た『ハックルベリーにさよならを』という芝居に感動し、
たまたまパンフレットに載っていた「男優オーディション」の文字に運命を感じ、
勢いだけで受験した素人の塊(?)だったのだから。


この24年前の話、もう少し続きがあるのだけどそれはまた明日。

 * * * * *

というわけで。
本日キャラメルボックス第3次オーディション。

まぁ、僕のような人間は来ないだろうし、そんなヤツは2次までに落ちているはずだ。
新しい仲間が生まれることを楽しみにしていよう。



では、また。