ども、背中を追い続ける岡田達也です。



「座長」というのは大変な仕事だ。

舞台の上で芝居を引っ張るのはもちろん
宣伝のためメディアに出る機会も多く何度も同じ質問に答えたりする。
もちろん、舞台を下りても気遣いせねばならぬことがたくさんある。
例えば出演者やスタッフさんにお弁当の差し入れなどをするのも大切な仕事だ。

そんなこんなを踏まえて頑張るのが座長だ。

 * * * * *

昨日、先輩が座長を務める芝居を赤坂ACTシアターに観に行った。

終演後。
楽屋に挨拶に出向いた。
他にも知り合いの出演者がたくさんいたので、先輩の楽屋に行くのが少し遅くなった。
すると、目の前にたくさんの面会訪問の方が並んでいた。
僕はその方たちの一番後ろに並んだ。
先輩は、一人一人、実に丁寧な挨拶をくり返し、帰り際にお心付けを手渡し、
どこからどう見ても好青年でしかなかった。
「すばらしい。さすが座長だ」
僕は先輩の見事な振る舞いに感動していた。

僕の順番になった。
目があった。
先輩はニヤッとした。

……おかしい。
僕の前の方までは
「今日はありがとうございます」とか
「お久しぶりです」といった
丁寧なお迎えの言葉を、柔らかい笑顔を浮かべながらかけていたのに。

無い。
無いどころか、ニヤッというかヒヤッとした視線をこちらに向けている。
なんだろう?

先輩が口を開いた。
「東京ドームで酒売ってるんじゃねーよ!」

……やばい。
ちょっと前の日記なのに、完全に記憶されている。
「いや、あれは僕が売るとよく売れるから知り合いに頼まれて――」

「いっぱい売れたって喜んでんじゃねーよ!おめー、役者だろう?」

あ、あかん。
ぐうの音も出ない。
どう考えても先輩の方が正論だ。

僕は話を逸らした。
「先輩、さっきまで何か配ってましたよね?僕には?」

「なんでおめーにやんなきゃいけねーんだよ」

ちょっとちょっと。
扱いがおかしいでしょ。

「さっきまでの丁寧な人はどこに行ったんですか?」

「……しょうがないな」

先輩はしぶしぶ手渡してくれた。

そして。
僕はめざとくケータリングのコーナーに、座長からの差し入れのお弁当が並んでいるのを見つけた。
「あ、この弁当は――」

「持って帰ろうとしてるんじゃねーよ!」

……は、はやい。
やはり先輩のツッコミはキレが違う。
衰えていないどころか、さらにスピードを増してる気がする。
なんせ“僕は弁当を見つけ、そちら方向に一歩足を踏み出しただけ”なのだ。
それであの的確なツッコミ。
完璧だ。

僕もいつの日かあの境地に達したい。

 * * * * *

ちがう、ちがう。
そんなバックヤードの話を書きたかったんじゃない。

そんなどうでも良いやり取りが楽しくて肝心な感想を言うのを忘れていた。
だから、ここで。

 * * * * *

とにかく声にしびれた。
劇場が大きいのでみんなマイクを付けている。
が、先輩の発声たるや「マイク不要でいけるのでは?」と思わせるほどの響きだった。
あれは嬉しい。
劇場で、しかも生声で
つまり舞台俳優として鍛えられた者でしかあの発声は不可能だ。
もちろん技術だけではなく気持ちの問題もあるのだろう。
自信に満ちているからこそ声に張りがある。
……ように見える。

立ち回りも、立ち振る舞いも、それはそれはシャープだった。
平たく言えば「かっこいい」のだ。

そうだ、そうだ。
僕はこの先輩のマネを何度もしてきたではないか。
芝居に行き詰まったとき「先輩ならどうしゃべるだろう?どう動くだろう?」とシミュレーションをくり返した。

もちろん桁もレベルも違うが、今の僕のお芝居を形成している一部分に間違いなく先輩の影響がある。

そして先輩はまだまだ先へ進んでいた。
後輩が歩みを止めるわけにはいかない。


一つだけ真面目に聞いた。
「体、大丈夫ですか?辛くないですか?」

そんな労りの言葉にも
「ふふん。全然平気だよ」

相変わらずだ。

先輩、先は長いですが、最後まで立派に座長を勤め上げてくださいね。


……なーんて言ったらきっとこう返されるんだろうな。
「おめーに言われなくてもわかってるよ!」






では、また。



追伸

キャラメルボックスの役者ブログも更新しました。
よろしければそちらもどうぞ。

http://caramelbox-actor.blog.so-net.ne.jp/2015-01-21