ども、断れない岡田達也です。



(『TRUTH』のネタバレ含みます。ご注意ください)

石川寛美師匠からメールが来た。
「来月、BOO WHO WOOLの稽古場バラシで運転してもらえないか?」

BOO WHO WOOL(ブーフーウール)とは石川寛美師匠が立ち上げた、絵本をベースにした芝居をやっているユニットである。
今回が3回目の上演になる。
僕のような薄汚れた人間が出演する機会は生涯無いと思うが、観させてもらうぶんには十二分に楽しめるし、何より子供たちを愛する石川さんの気持ちがいっぱい詰まっていて気持良い。
もちろん車の運転など喜んでお手伝いさせてもらう。

そして……
何よりも断れない理由がある。

今回のBOO WHO WOOLには元キャラメルボックスの劇団員である中村亮子が出演する。

* * * * *

『TRUTH』という時代劇をやっていたときだった。

僕は耳が聞こえなくなってしまった武士・弦次郎という役。
中村亮子はその弦次郎に想いを寄せ、身の回りの世話をしてくれる美緖という女性の役だった。

耳の聞こえなくなった弦次郎は、基本的にみんなと筆談で会話する。
そのために懐には矢立(やたて)をしのばせている。

矢立とは。
筆と墨壺を組み合わせた携帯用筆記用具。
まぁ早い話が今で言うところの筆箱みたいなものである。


とあるシーンで。

僕が亮子に矢立を渡し、その中から彼女が筆を取りだして筆談を始める、という場面。
(ちょっとややこしいが、この場面は代筆してもらうため僕ではなく彼女が書くという設定)

矢立を渡したところで亮子がモジモジしている。
ん?
何をしているのだ?
早く次のセリフをしゃべらんか!
そう、思った瞬間。
彼女の手元が目に入った。

あ!
無い!
矢立の中に筆が入っていない!

自分の体中をまさぐってみるがどこにも筆らしき物はない。
どうやら先ほどの殺陣のシーンで中の筆だけを落っことしてしまったらしい。

これはまずい。
亮子、済まぬがマイムで誤魔化してくれ!
そう願ったのだが……
顔面蒼白の彼女からは思わぬアドリブが飛び出した。

「あのー、弦次郎様……、ペンを(ください)」

うぁあああああああああああああああ!!!!!!

亮子!
わかる!
わかるけど!
そこはせめて「筆」だろ!
今は幕末とは言え江戸時代だ!

それに。
いくら要求されたところで僕の手元にはペンはない。
僕は心の中で「亮子、ごめん!」と叫びながら、着物の袂で隠しているふうに筆を渡すフリをした。
さすがに彼女もそこで気付いてくれたようだ。
ここはマイムで乗りきるしかない、ということを。

今思いだしただけでも冷や汗が出る。
このように亮子には大きな借りがある。
彼女が出演するなら何でも喜んでお手伝いさせてもらうつもりだ。

* * * * *

無駄話はココまでにして。
(長い無駄話だな……)

間もなく開幕します。
現役の子供たちだけじゃなく
子供時代を経験しているすべての大人たちが楽しめる作品です。
お時間が合えば是非。

BOO WHO WOOL 第三回公演
『こんにちはアンデルセンさん』
http://www.caramelbox.com/stage/bww/web.html



では、また。