ども、見事にやられた岡田達也です。



畑中智行

可愛い後輩である。
僕の思い違いでなければ彼がデビューしてからたくさん面倒を見てきた。
ときにお尻を蹴り上げ、ときに頭を引っぱたき、ときに胸板にチョップを入れ、いつだって叱咤激励してきた。
(……それはいわゆる「可愛がり」ではないのか?)

舞台上だけではない。
同じ音響部として働いてきた。
いろんな専門知識を教えてきた。
今やセミプロとしてアルバイトできるほどの腕を畑中が持てたのは僕の指導の賜(たまもの)だろう。

* * * * *

ザ・グレート・カブキ

古いプロレスファンの方ならおわかりだろう。
全日本プロレスに所属していたレスラーである。

若い頃は「高千穂明久」というリングネームで正統派として活躍していた。
が、アメリカ遠征に出たときに、プロモーターのアイディアでイメチェンを行った。
まずは「ザ・グレート・カブキ」というリングネームに変更
それに会わせて顔に歌舞伎のペイントを施し、着物や能面を着けて登場
ヌンチャクを操り、毒霧を吹くという東洋系のヒールキャラクターが完成した。
アメリカでは大いに受けたそうだ。
のちに連獅子姿や、鎖カタビラに日本刀を携えた忍者をモチーフとしたコスチュームでも登場している。

が、何と言っても彼の一番の売りは「毒霧」だろう。
元々はパフォーマンス的に、口から色の付いた液体を天に向かって吹き付ける、というものだった。
が、やがてエスカレートしていき、ピンチの場面になると相手の顔に毒霧を吐きかけ、目つぶし的な攻撃として使用される場面もでてきた。

その後、いろんな選手が「毒霧」をコピーしていき(代表的なのはグレート・ムタ選手)、その技は受け継がれている。

* * * * *

昨日の本番中。
とあるシーンで畑中と向かい合って2人だけで会話をするところだった。

ひょっとするとヤツは力が入っていたのかもしれない。
そうでなければ初めから狙っていたのだろうか?

あるセリフをしゃべったとき、ヤツの口から、大量のツバが、僕の顔面に向かって飛んできた。
そして、その中の一部が、見事に僕の右目を直撃した。

こ、これは!
ど、ど、毒霧攻撃じゃねーか!

い、痛い。
だけど芝居を止めるわけにはいかない。
僕は右目をウィンクした状態のまま次のセリフを口にし、なんとかそのシーンを乗りきった。

* * * * *

まさかの毒霧攻撃に、終演後、畑中をつかまえて叱った。
するとヤツは……
「やっとかかりましたか。稽古中から狙ってたんですけどね(ニヤリ)」


「恩を仇で返す」という言葉がある。
ひょっとすると世話をしてきたつもりだが、それはこちらの思い過ごしで、恨みだけを買っていたのだろうか?
まぁいい。
返された仇は何でお返ししようか?と考えている。

今日の舞台は血を見るかもしれない……



では、また。