ども、10歳年上の岡田達也です。
キャラメルボックスの芝居には「前説」というものがある。
前説(まえせつ)とは、劇場での公演、またはテレビ番組の公開放送などにおいて、本番前に観客に行う説明のこと。
観客に対する諸注意(見学マナー、携帯電話の使用など)、拍手や笑い声のタイミングの説明をしたり、会場の雰囲気を良くする為に漫才やコントなどを行うこともある。また、若手芸人にとっては芸のアピール、実力のテストができ、腕試しの出来る登竜門的な場でもある。
(ウィキペディアより)
初期の頃は加藤昌史社長が一人でやっていた。
その後は新人を連れて2人組でやるようになった。
キャラメルボックスの俳優は、前説でお客さんの前に出て、顔と名前を覚えてもらう。
それが慣例だ。
何年前だったろう?
何の公演かも忘れてしまった。
新神戸オリエンタル劇場でやった芝居だということだけは明確に覚えている。
その日は鳥取から両親が観に来てくれていた。
日曜日のマチネだった。
終演後、オリエンタル劇場の隣にある中華料理屋に入った。
母親が言った。
「あの、前説で加藤さんと一緒にやってたのは新人さん?」
「そうだよ」
「ふーん」
「何?気になる?」
「いや、あの方はひょっとしたら田舎の方?」
「そうだよ!奈良の山奥出身なんだ。よくわかるね?」
「うん。なんとなくだけど、彼には純朴さを感じるの」
「……へぇ」
「育ちが良いって言葉があるでしょ?彼の場合、ちょっと本来の意味とは違うけど、田舎の人ならではの育ちの良さを感じる」
「……そうなんだ」
「愛嬌もあって好感が持てるし。とても気持ちいい前説だった。人柄が出てるというか」
「……べた褒めだね」
「早く舞台に立てると良いね」
「そうだね」
「私はきっと良い俳優さんになると思う」
もう一度、書く。
その日にやった芝居が何だったのか?
僕の演じた役は何なのか?
両親はどんな感想を言ってくれたのか?
何も覚えていない。
ただ。
この会話だけは鮮明に覚えている。
母はわざわざそのことを僕に伝えようとしたのだ。
よほど強く思ったにちがいない。
そして。
その後の彼の活躍を目にするたび僕は驚き、そしてあの日の母親の言葉を思い返す。
母親は占い師でもないのに。
予言者でもないのに。
お母さん、あなたの言うとおりになりました。
良い目をしてますね。
* * * * *
畑中よ、お誕生日おめでとう。
では、また。