ども、ジャニーズには入らなかった岡田達也です。



大学4年生の時。
同じくラスの山本くんから運転手のアルバイトをやらないか?と持ちかけられた。
その仕事の名前は『ABC放送主催 ジャニーズ野球大会』というもの。
具体的な内容は、アイドルの子たちを乗せたオープンカーを運転し、グラウンドをゆっくりと走るというものだった。

それが甲子園球場である。

僕はアイドルオタクでもなかったしジャニーズのファンでもなかったけど、それでもトップアイドルたちを間近で見られるというのは滅多にない機会だし、オープンカーを運転するなんてこともこの先経験できないかもしれない。
喜んでその仕事を引き受けた。

* * * * *

日本でも珍しいオープンカーが何台も並んでいた。
ジャニーズのメンバーも並んでいた。
しかも、今、自分は甲子園球場のグラウンドの上に立っている。

平凡な学生生活を送る大学生には刺激が強すぎる光景だった。
現実感が欠落している。

目の前で、雑誌社の人たちが
「諸星くん、こっち向いて!」
などと言いながら彼の写真を押さえている。
諸星くんは気だるそうに前髪をかき上げ、なかなかリクエストに応えてくれない。

リハーサルでは少年隊の錦織くんが『仮面舞踏会』を西城秀樹のモノマネで歌っている。
実に秀逸なモノマネだった。
(もちろん本番はマジメに歌っていたが)

かたや東山くんは折り目正しく、キッチリと関係者に挨拶して回っている。
(この日、もっとも好感が持てたのが彼だった。とにかくアイドルとは思えないほど紳士的で礼儀正しかった。ファンになった。ちなみに植草くんはこの日はお休みだった)

トイレにはいると男闘呼組の高橋くんと目が合い、いきなり「ちっ」と舌打ちされた。
(断っておくが僕はケンカを売ったわけではない)

* * * * *

オープンカーの所有者の方から丁寧に運転してくださいねと念を押されて乗り込んだ。

その後ろの座席に、『SMAP』というグループの、3人の男の子が、乗り込んできた。

SMAPである。
日本でここまで大きくなったアイドルグループはそうそういない。
今なら言える。
「オレは、あの、SMAPを乗せたんだ!」と。

しかし。
当時の彼らはまだCDデビューしていなかったと思う。
テレビでも見かけた記憶がない。
アイドル好きでもない僕にとっては「へー、SMAPって名前ね。覚えておこう」くらいの認識だった。

だから僕は、3人の男の子を乗せたのだけど、それが誰なのか、今書けない。

もったいない……。
あのSMAPを乗せたのに。
3人も乗せたのに。
(残りの3人は違う車に乗っていた)
それが誰だったのか、さっぱりわからない。

ただ、忘れられないエピソードが一つ。

リハーサルの最中、車を運転しながら、何となく話しかけてみた。
「この大会って毎年やってるの?」

誰かが答えた。
「はい!そうですね」

僕は言った。
「じゃあ、来年も出るんだね?」

すると……
「はい、来年も出ます!できれば一人一台になってるといいな」

誰の発言なのかそれもわからない。
だけど、なんだか良かった。

売れれば、錦織くんと東山くんが別々の車に乗れるように、光GENJIには4台の車があてがわれるように、扱いが変わってくる。
そうなりたい、と言っているのだ。

僕はその気持ちよさに
「なってると良いね! 頑張ってね!」
と思わず声をかけた。


その後の彼らの活躍は言うまでもない。
甲子園球場のグラウンドで、駆け出しのアイドルであった彼らの決意を見せてもらったこと。
忘れられない思い出。



では、また。