ども、競馬はやらなくなった岡田達也です。



細見大輔に誘われて、年末にゲスト出演することになったお芝居のタイトルは『ナツメ』。

ナツメか……。
懐かしいなー。

いや、ひょっとするとあれは『なつめ』ではなく『ほつめ』だっただろうか……。

* * * * *

先日、田舎の父親からクロスワードの問い合わせがきた。

「4文字です。後続に追いつかれずにゴール、が問題です」

僕は即座に返信した。

「これは競馬の問題ではないのですか?だとすれば、お父さんの得意分野ですよね?「にげきり」ではないのですか?」

すぐに返信があった。

「納得、なっとく」

* * * * *

僕の父親は競馬が大好きな人だった。
それ自体を責めるつもりもない。

ただ。
僕が幼少の頃の話だ。
すべて実話だが、話半分で聞いてもらって良い。

いまから35年とちょっと前。
鳥取にJRAは存在しなかった。
(もちろん今も)
だから馬券が買えない。
もちろん今のようなパソコンを使って購入するという手段もなかった。
では、どうするのか?

それはそれは怪しげな、普通の人間なら知り得ない場所で馬券を購入するのが常だった。

* * * * *

日曜日の朝。

勤務先の病院へ出掛ける看護婦の母親は父親に念を押していた。
「達也のごはん、お願いね」

父親は応える。
「おう、わかっとる」

母親が出掛けていった直後、父は僕を鳥取駅の南口にある喫茶店『なつめ』に連れていってくれた。
「何でも食べて良いぞ」
と、いつだって大盤振る舞いだった。
これが朝9時のこと。

ご存じだろうか?
中央競馬はその辺りの時間から始まり、午後の3時30分くらいまで行われる。

そのあいだ、僕はオムライスやらスパゲッティやらを食べ続ける。
オヤジは、競馬新聞とにらめっこし、予想し、そのお店の人間から馬券を買う。

つまり、このナツメという店、世間で言うところの「ノミ屋」なのだ。

馬券を予想し、そのお店の人間にお金を払う。
当たればお店側が配当金を支払ってくれる。
(JRAの代わりを務めてくれているようなもの)
当然外れれば、その金額はお店側の取り分。
このシステム、説明が面倒なので省くけど、よほどの大穴が当たらない限りはお店が儲かるように出来ている。
(興味ある方はちょっと考えてみてください。すぐにわかるはず)

* * * * *

せっかくの日曜日。
得意げに「なんでも食べていいぞ!」と言われても、子供の胃袋には限界がある。

朝の9時から夕方まで、僕は「なつめ」のテーブルで、退屈を埋めるため、大人たちが読み捨てた競馬新聞を読んでいた。

どう見ても普通の喫茶店ではなく、暗く、妙な雰囲気を醸し出しているお店だった。
当然のごとく2階は雀荘になっており
(それから10数年後、僕はそこの常連になるのだが……)
本当に怪しい大人たちしか出入りしてない喫茶店。
お店の看板が「なつめ」なんだけど字体がくずしてあり「ほつめ」にも見える喫茶店。

今はもうない。

* * * * *

お父さん
もう覚えてないでしょうね?
そして知らなかったでしょうね?

僕がなつめでどれだけ退屈していたか。

オムライスは美味しかったけど、やっぱり楽しくなかったのですよ。
あなたはずいぶん楽しんでいたようですけど。

「にげきり」くらい忘れないでくださいよ。


ちょっぴりせつない子供の頃の思いで。



では、また。