ども、生まれてこのかた「天才」と呼ばれた経験が一度もない岡田達也です。



周囲の見る目がないのか、はたまた本当に自分が凡人なのか……。
悩みどころではある。
(……そこで悩めるんだな)


広島東洋カープの前田智徳選手が引退を表明した。
大好きな、大好きな選手だった。

彼は高校生時代から「天才」と言われていた。
僕と違って、周囲の見る目と本人の才能が一致しているパターンだ。

野球に詳しい人なら詳細を書かずともご存じだろうが、前田選手はその才能に甘えることなく、人一倍の努力を重ね、ファンや首脳陣の期待に応えた。
そして、必ずやカープを支える選手となり、すごい数字を残すだろうと誰もが思った。

が。
1995年、プレー中に右アキレス腱を断裂した。

素人の僕などは「アキレス腱を切っても、ちゃんと治療して再び活躍してくれるだろう」と安易に思っていた。

しかし。
その後の彼のコメントはそんな甘さを微塵も許さないものばかりだった。

「もう片方のアキレス腱も切りたい。」
「今分かることは、もう前田智徳は前田智徳を超えられないと言うことです。」
「もう前田智徳と言うバッターは死にました。」
「もう、昔の僕じゃないんです。」
「今やってるのは前田弟ですよ。」

あまりにも悲痛なその言葉たちは「天才」と呼ばれた男でなければ吐けないものばかりだ。
僕は尚更彼を応援するようになった。

その後の彼の活躍は十二分に素晴らしいものだった。
残念ながらタイトルとは無縁だったけど、その鬼気迫るプレーと、侍のような立ち姿は記憶に残る選手として焼き付いた。


ある年のオープン戦。
相手の若いピッチャーが投げるぬるい球にピクリとも反応することなく三振に倒れた。
不思議に思った記者がインタビューすると
「打つ気にもならん。あんな球、プロの球じゃない」
僕は痺れた。

イチロー選手は言った。
「僕なんて天才じゃない。真の天才とは前田さんのことを言うんですよ」


バットが刀に見える選手だった。
その勇姿が見られないのは残念だけど、またいつの日かグラウンドに戻ってきてくれることを信じて。

前田選手、おつかれさまでした。



では、また。