ども、顔を赤らめた岡田達也です。



演劇を創るには演出家が必要だ。

極端な話だけど……
役者がどんなに下手だろうが
脚本がどんなにつまらなかろうが
演出家に手腕があればどうにかなるものだ。
不思議と見せられるものになる。
それほど演出家の力量というのは、芝居を創る上で大きな割合を占めている。

もちろん役者も下手なままで良いわけではない。
演出家の振る指揮棒に従いながら、より良い作品になるよう努力する。
だが、所詮、人の子だ。
「演出家の期待に応えたい!」と思いつつも、技術不足、ハートの弱さ、酒の飲み過ぎなど、もろもろの理由によりちゃんとした芝居がお見せできなかったりする。

余談だが……。
僕などは100%の力が出せたら、稽古場にいる全員が震えてしまうほどの芝居をお見せできる自信があるのだが、上に書いたような理由、さらに「今晩、何食べよう?」という集中力の欠落、「またオヤジはパチンコに通っているんだろうか?」という余計な心配などにより、大抵の場合2%ほどの力しか発揮できていない。
僕の真の力をお見せできないのが残念で仕方ない。

大きく話が逸れた。

上手くできない役者を見ている演出家も、また人の子である。
最初はマリア様のような顔で見ているが、そのうち般若のような顔に変化する人が多い。

* * * * *

鹿殺しの演出家であるチョビちゃんはいつも冷静に、言葉にして、何を見せたいのか、何がダメなのかを話してくれる。
こちらが方向性を見失っていると感じたときは、しっかりと一から細かく説明してくれる。
とてもありがたい。

が。
彼女も集団を率いる長でもある。
そして人間でもある。
若い子たちが思うような芝居ができないと厳しいダメ出しが飛ぶ。

* * * * *

僕は稽古場の隅で台本を読んでいた。

「そのセリフ、5倍の声量にして!」

僕は、思わず、立ち上がった。

声の主を見るとチョビちゃんであり、若い子に対するダメ出しだった。
それは普通の光景だ。

なのに、何故、僕は、反射的に、過剰に、反応してしまったのか?

それは、僕がずっと成井さんに言われ続けてきたダメ出しだったからだ。

* * * * *

今、成井さんがそのようなダメ出しをすることは見かけない。
だが。
昔はすごかった。

「声量を、2倍にして!」
などは可愛い方で
「声量、5倍!!」
などはちょっと火が付いてるなー、という感じで
「声量、10倍!!!」
となると「カレーの辛さじゃないんだから、そんなに簡単に10倍になるだろうか?」と思いながらも声を振り絞り
「声、100倍!!!!!」
となると、「声量」ではなく「声」に変化しているところから察してももはや叫ぶしか残された道はなく、喉から血が流れるほど叫んでいた。

もちろん、これは僕だけではない。
古いメンバーは全員が通ってきた道だ。

おそらく。
みんなが言われた倍数を掛け合わせると天文学的な数字になるだろう。

* * * * *

稽古場の隅で立ち上がった僕は
「あ、自分じゃないんだ……」
と我に返り、顔を赤らめた。
なんという恥ずかしさ。


あくまでも想像であるが。
成井さんやチョビちゃんだけではあるまい。

小劇場出身のパワフルな芝居を行う集団の多くの演出家は
「声量、○倍!」
と言ってるんだろう。

これは、この先、何年経っても脈々と受け継がれて行くに違いない。


今日の稽古では不必要に5倍にしてみようと思う。



では、また。



追伸

Ustream配信をごらんいただいたみなさん、ありがとうございました!
すべての質問に答えらなくてゴメンナサイ。

昨日見られなかったという方も、アーカイブされているそうなので、興味があれば鹿殺しのHPから辿ってみてくださいね!