ども、反省を促された岡田達也です。



楽屋にて。
開場時間になり、僕は懸命にメイクをしていた。
天才物理学者に変身するためには
世の中に出回っている化粧品の力を借りなければならない。
……というわけではない。
なにぶん顔が黒いので
多少なりとも普通の肌色にしなければ
いくら明るい照明を当ててもらっても顔がくすんでよく見えないらしい。
しかも今回の相手役、近江谷太朗先輩は色白の代表格みたいな人だ。
2人で並ぶと「キャラメルボックスのオセロみたいだ」とよく言われる。
なんとか人並みの肌色を手に入れるため必死で塗りたくっていた。

すると……。
妙に青臭い香りが楽屋に漂う。
僕の妖怪アンテナがビンビン反応する。
鼻をクンクンさせ悪臭の出所を探し出す。
いた。
見つけた。
匂いの出所は僕の真後ろにいる新人の鈴木秀明くんだ。
彼がお弁当を食べようとしているのだ。
それだけなら問題ないのだが
ご飯の上に差し入れで頂いた大量のキュウリの漬け物が乗っかっているではないか!

なんたる愚行!
なんたる無礼!
なんたる度胸!

岡田達也の真後ろでキュウリの漬け物を喰らう。
こんな自殺行為を働く後輩を見たことがない。
ん?
待てよ。
そうか、この子は新人さんだから僕のキュウリ嫌いを知らないのかもしれない。
僕はジャイアン・スイッチをオンにして静かに口を開いた。
「ほーう、オレの真後ろでキュウリを食べるのか?」
鈴木くんは気付いた
「あ!すみません!すみません!」
(すみません!は彼の口癖で、いつ何時でもこう言うのが彼の特徴だ)
どうやらこの反応からするとキュウリ嫌いは知ってるようだ。
まあ、キャラメルボックスに入団して1年しか経ってないわけだし
あまり虐めても可哀想だ。
僕は鈴木くんの隣に座っている筒井に目を付けた。
「つ・つ・い!オメー、後輩の指導、どうなってんだ?あぁ?」
急に振られた筒井だが、そこは心得たものである。
咄嗟に反応してきた。
「達也さん!僕の教育が行き届かないばっかりにスミマセンでした!」
と、最上級の土下座をし額を床にこすりつけた。
慌てたのは鈴木くんである。
自分のとばっちりが筒井に飛び火しているのだ。
「あ!すみません!すみません!」
今度は筒井に謝っている。
ただただ弁当を食べようとしただけなのに鈴木くんも一苦労である。
(オマエがまいた種だろうが)

というような茶番が楽屋であった。

夜。
お客さんを交えて飲みに行った席で。
何の流れか岡田達也論になった。
川原アニキに言われた。
「達也はさ、20年前に会ったときから、基本的には腰が低くて人当たりも丸いのに、突然かいま見せる暴力性が強烈なんだよ。何でそんなにギャップがあるんだよ?今日だって楽屋で大暴れだったじゃねーか!反省しろ」

「いや、あれは冗談で……」

観に来てくれていた深沢敦さんが言った。
「そうなのよね。達也はさ、ビックリするほどジャイアンなところがあるのよね。普段はいいあんちゃんなのに」

「いや、滅多にジャイアンになるわけでは……」

西牟田恵嬢が悪ノリしてきた。
「女の子には優しいのにね。すぐに肩とか抱くし」

「いやいや、そんなことしてねーだろ!」

アニキに釘をさされた。
「優しいのか恐いのかどっちかにしろ!」

無茶苦茶な注文である。
僕だって人間だ。
いろんな面があるのはしょうがない。
どっちも兼ね備えての岡田達也なのだ。

あ、そうか!
ジャイアン化するのが問題ならばスネ夫化してみるのはどうだろう?
悪くないアイディアだ。
しかし。
この僕にそんな器用なことが出来るのだろうか?

……いや。
そういう問題ではなく、後輩に優しくしよう。
それだけで良いのだ。
なんだ、簡単なことじゃないか!

しかし。
この僕にそんな器用なことが出来るのだろうか?

ああ、今日もアニキに怒られるかも。



では、また。