ども、視力の王様こと岡田達也です。



中学1年とき。
ある日、クラスメイトの谷本くん
(鳥取駅前で卸酒屋をやっている谷本酒店の跡取り息子。現在は彼が主になっていると思うんだけど……)
がメガネをかけて学校にやってきた。

それまで谷本くんはメガネをかけていなかった。
どうやら視力の低下に伴ってメガネを購入し
その日からかけ始めた、というだけのことだ。

僕の記憶違いでなければ
30年前の世の中は
小中学生のメガネ率は今よりも低かったのではないだろうか?
そんな具合も手伝って
クラスメイトは彼の元にドット押し寄せた。
もちろん、僕もその一人だった。

おおっ!
それはっ!
メガネだ!
(当たり前だ)
周囲の反応はすこぶる大きかった。

「え?え?え?ノブ(谷本くんの呼び名)、なんだいや(どうした)、そのメガネ?」
「いや、ちょっと前に買って持っとったけど、なるだけかけんようにしとった」
「ふんふん。で?」
「でも、黒板の字も見えにくうなってきよったけー」

ここから先の展開がすごかった。

「いやー、実はオレも最近目が悪くなってなー」
「オレもだわいや!」
「さーいな(そうなんだよな)、オレもここんとこ黒板の字が読めんわい」

突然、クラス中の男子たちが視力の低下を訴え始めたのだった。

「オレもメガネ買ってもらおうかな」
「オレもメガネ買おうかな」
「オレもメガネがいるかもしれんな」

何てことはない。
突然、仲間の一人がメガネ男子に変身し
みんながその影響をまともに受けてしまっただけのことだ。
羨望の眼差しを向けられた谷本くんは大変である。
かけてきたメガネをみんなに回されて
いつまで経っても手元に戻ってこない。

かく言う僕の元にもそのメガネがやってきた。
今にして思えば、人生で初めてのメガネだったかもしれない。
僕はソッとメガネをかけた。

ん?
なんだこれ?
景色が歪んで見えるぞ。
とても見にくい。

しかし。

「あー、なるほどな。オレもメガネかけた方がエエかもしれんな」

ひょえー!!!!!
何を言ってるのだ、自分!!!!!
いらない、いらない!!!!!
こんなものかけたって見にくいだけだ!!!!!

「ああ、やっぱりオカタツもそうか!」
富山くんが合いの手を入れてくれた。

わお!!!!!
何が「やっぱり」なんだよ!!!!!
オマエにオレの視力の何が分かるんだ!!!!!

こうしてクラス中の男子が
「我こそは明日にもメガネをかけてくるぞ!」
という勢いで熱くメガネの重要性を語り出し
授業開始のチャイムが鳴るまで盛り上がった。

言うまでもないが
その後、メガネ男子は一人も増えなかった。

でも、何だか、その日の谷本くんが
とても大人っぽく
とても理知的に見えたのだ。
クラスの男子の気持ちは一致していたはずだ。

「メガネをかければオレだって」



では、また。