ども、言葉には出さなかった岡田達也です。



小道具部チーフ・伊藤ひろみさんから号令がかかった。
「劇中で段ボールが大量に必要です。しかも大きなヤツです。みなさん、ご協力お願いします!」

『容疑者χの献身』にはホームレスが登場する。
そして、それは、物語に欠かせない重要なポイントになる。
つまりは、そのホームレスを際だたせることが作品をより良い方向に導く。
なので、彼らの住まいを舞台上に設置するにも力が入る。
当然、かなりの量の段ボールが必要となってくる。

昨日、僕の住む地域では古新聞・段ボールなどの回収日だった。
朝。
この日記を書き上げ、ジャージのまま家を出た。
段ボールを品定めするためだ。
幸い、天気も良い。
通りに出て眺めてみると段ボールも出されているようだ。
しめしめ。
これで伊藤さんにステキな手土産を届けることができる。
ここでポイントを稼いでおけば
「おっかー、何か欲しい小道具はある?1万円までなら自由に使って良いよ」
という展開になり
「いやいや、僕なんか何も要りませんよ。低予算でいきましょう」
と返すとさらにポイントが増し
「嬉しいこと言ってくれるじゃない!100万円まで自由に使って良いよ」
と金額が跳ね上がり
「じゃあ、お気持ちだけ頂きます」
と殊勝な返事をすると
「もう、もってけ泥棒ー!」
と1000万円が僕の懐に収まるような夢物語を頭の中で展開させながら
近所の壁沿いを「犬の散歩のように」歩いた。

探せばあるものだ。
大きくてキレイなものが。
テレビを梱包していたもの
アマゾンから送られてきたもの
トイレットペーパーが12ロール梱包されていたもの
へー、もっと大変かと思ったけど
30分ほど歩いて5枚ほどゲットできた。

お!
あの先にも大きな段ボールが見える。
行ってみる。
幾つかのサイズの違う段ボールがガムテープでまとめられている。
僕の欲しいのは、一番外側の、特大のヤツだけだ。
小さいのは必要ない。
僕はガムテープをソッと剥がし始めた。

ん?
視線を感じた。
5mほど先から犬の散歩をしている老夫婦がこちらを見ている。
ジーッとこちらを見てる。
確実に冷ややかな温度の、刺さるような目線だ。
……。
ああ、そうだよな。
彼らの目には
「ゴミ置き場で薄汚れたジャージを着た中年男性が段ボールを漁っている」
という画に見えるよな。

ん?
いや、違うんです!
僕はホームレスではないんです!
これからホームレスの仲間入りを果たす可能性が無いわけではないけど
(あるのかよ?)
コレは小道具探しなんです!
あ、そりゃね、回収される段ボールを漁ってますよ!
良くないことかもしれません!
だけど、悪だくみじゃないんです!
ちゃんとこの段ボールを役立ててみせますよ!
世界平和に繋げるまでは行かないかもしれませんが
この段ボールのおかげで面白い芝居を作ることが出来るかもしれません!
だから、パッと見泥棒に見えるかもしれませんが、見逃してやってください!

僕は心の中だけでそう叫び
6枚目の段ボールをゲットして
逃げるようにその場を立ち去った。

そんな思いで手に入れた段ボールだ。
これで芝居も面白くなること請け合いだ。
あとは役者がちゃんとやれば。
……はい。



では、また。



追伸

伊藤さんからまだ1万円の話は出ていない。