ども、騙された気がした岡田達也です。



練り物が大好きだ。
いわゆる「てんぷら」と呼ばれるものたち。
いわゆる「かまぼこ」と呼ばれているものたち。
魚のすり身を揚げたり焼いたりしたもの。
あの、食感と味が大好きだ。

立ち食いそば屋に行けばオーダーは必ず「ちくわ天そば」だ。
居酒屋に行けば「ちくわの磯辺揚げ」はマストなメニューだ。
おでんはまさしく最高だ。
もちろん大根だって卵だって美味しい。
だけど、やっぱり「平天」や「ウインナー巻き」「ゴボウ巻き」「ちくわ」などは欠かせない。
実際、これらの練り物くんたちからあのお味が染み出ていくのだ。

今から22年ほど前。
大学を卒業した僕は東京の吉祥寺にある会社で働くことになった。
そして、ちょうどこの季節に東京に越してきた。
大都会・東京を目の当たりにした僕は驚いた。
「うわー、これからはここで生きていくんだ」
そんな、ちょっとセンチな気持になった僕の目の前
当時『ユザワヤ』のビルのそばにひっそりと屋台が出ていた。

その屋台には「おでん」ののれんが。

おっと、かっこいいな。
オレも大人になったことだし
(ただ大学を卒業して東京に来ただけだが)
人生初の屋台を経験してみるか
(飲みたいだけじゃねーか)
僕はイスに座った。

小さなメニューが置いてあった。
大根、こんにゃく、卵、ちくわ、野菜天、がんも……
それらの並びに「ちくわぶ」なるものがある。
ん?
なんだこれ?
僕の22年の人生でお目に掛かったことのない食べ物だ。
しかし名前は「ちくわぶ」である。
おそらくは「ちくわ」がどうにかこうにかなった物ではないのか?
例えば
ちくわがぶにぶにしている
または
ちくわがブイブイいわせている
もしくは
ちくわがブリッとしている
そんなところだろう。
せっかく屋台デビューしたのだ。
ついでにちくわぶデビューしてみよう!
僕は注文した。

あー、なるほど。
でかいナルトのようなものなのか!
もしくはギザギザしたちくわ!
でも色から判断してナルトの方が近いだろう。
まあ、ナルトも練り物、嫌いじゃない。
僕はガブリと一口囓った。

「!」

僕は食べ物を粗末にする人間ではない。
食べ残しもしない。
人に「卑しい」と言われれば
「ああ、全くその通りだ」と言い返せる人間だ。
だが。
思わず、本当に思わず、反射的に、
一口前歯でかみ切ったちくわぶを口から出してしまった。
お店の親父が不審そうな顔でこちらを見る。
「あ、いや、その……、熱かったモンで」
ついつい嘘をついてしまった。
だって
「ちくわに近い食べ物かと思って思いっきり囓ってみたら、全くの別物で、脳内でイメージされていた食感と懸け離れていたため、反射的に口から出してしまいました。スミマセン」
なんて本当のことが言える余裕もなかったのだ。
嘘をついたのは悪かったが、熱かったとしか言いようがなかった。
一旦口に入れた物を出したのは人生2度目の経験だ。
(1度目の経験はまた別の機会に)

西日本では馴染みのない食べ物なので簡単に説明しておくと
小麦粉を水で練って蒸してあるもの
それがちくわのように成型されている、そんな食べ物。
つまりは「すいとん」なんかと変わりはない。
僕は「すいとん」は大好きだ。
だけど、その、あまりのギャップは、どうにも覆しようが無く
その後箸を付けることができなかった。

以来、22年間、僕は一度もちくわぶを食べていない。

今、東京のおでん屋に行くとちくわぶを注文する人の多いことに驚く。
「これが一番好きなんだ!」という人だって大勢いる。
だけど、あのときの、何とも言えない
「これ、詐欺じゃねーか!」
という「騙されてしまった感」が拭えないでいる自分は注文ができない。
(勝手にそう感じただけなのに)

なんで「ちくわぶ」なんてネーミングにしたんだよ。
「こむぎに水と塩を加えて捏ね、棒に巻き付け成型し、蒸し上げた物」
という名前だったら今頃大好物になってたかもしれないのに……。



では、また。