ども、寒さに震える岡田達也です。



3月になったというのに……。
東京、寒い。
一度、春を感じた日があったんだけどこれじゃ再び冬に逆戻りだ。

* * * * *

僕は小学5年生のとき
鳥取市内の小学校から市内の小学校へと小さな転校した。
転入したクラスに「砂川やよい」さんという女の子がいた。
利発で活発な彼女はクラスの人気者だった。
いつでも明るく、勉強ができ、スポーツも万能で
小学生では男子でも女子でも鉄板のモテるタイプの子だった。
僕も例に漏れず、何となく砂川さんのことが気になり始めた。

ちょうどその頃
同じクラスの山根くん、下田くんと3人で連むことが多くなった。
3人の共通項は「自転車好き」。
当時、世間で大流行していたのは
三浦友和が宣伝していたセミドロップハンドル搭載のタイプだったが
(『さよならノーチラス号』で登場したタイプです)
僕ら3人は、もっと上の、もっと大人の
ブリジストンで言えば『ロードマン』シリーズに代表されるような
ドロップハンドルの本格的なスポーツ車に憧れていた。
と言っても小学5年生に自転車を購入する経済力はない。
コツコツと小遣いを貯め、お年玉を貯め、
卒業までには3人ともマイチャリを購入しサイクリングに行くことを夢見た。
しかし、それだけではもの足りず
僕たちは毎日、学校帰りに自転車屋に通い、カタログを開き、お店の人と語り合った。

本当に偶然なのだが
砂川さんの家は我が家から徒歩5分のところにある自転車屋さんだった。

そう、僕らが毎日通ったのは砂川さんの家だった。

そのお店は砂川さんのお父さんと、その弟さん(やよいさんのおじさん)の2人でやっていた。
2人とも僕らが行くといつでも笑顔で迎えてくれた。
今思えば、よくぞ小学生の自転車に対する思いなど
毎日毎日嫌な顔一つせず聞いてくれたものだと感心する。
僕らはずいぶん遅い時間まで
修理する姿を見てたり、カタログを見てたり、お店の自転車をいじったりと
自由気ままに過ごしていた。

すると。
外で遊んだやよいさんが帰ってくる。
必然的にいろいろとお喋りするようになる。
それが、僕は、嬉しかった。

学校じゃないところで好きな女の子と話ができるのは悪くない。

ある日、何気なく僕は彼女に言った。
「『やよい』って変わった名前だね」
彼女はちょっとだけ顔を曇らせ
「そうかな」
と答えた。

本当に、悪意も悪気も無かった。
ただ、当時の女の子は最後に「子」が付く名前が圧倒的に多くて
僕にしてみれば「やよい」というのはとてもステキな響きを持つ名前だったのだけど
それをどう伝えてよいか分からずに
「変わった名前」と発言してしまったのだ。

これがしくじりだった。

それ以来、グッと近づいていた距離はずいぶん遠くまで開くことになった。
もう、原因は間違いなくそれだ。
でもでも、小学生が「『やよい』ってステキな名前だね」なんて言ったら
それはそれでシバキ倒したくなること間違いない。

そのことが忘れられず、ある日、僕は母親に訊いた。
「『やよい』ってどういう意味?」
「やよいっていうのは3月のことよ」
「ふーん」
「どうしたの?」
「いや、クラスメイトにやよいさんっていう名前の女の子がいて」
「じゃあ、きっと3月生まれなのよ」
「そうか……」

でも確かめてみたところ彼女は3月生まれではなかった。

その後、僕たち3人は無事に自転車を購入し
ことあるごとに遠乗りに出かけ鳥取県内を走り回った。
もちろん砂川サイクルにも通い続けたのだけど
やよいさんと話をすることは無かった。

* * * * *

これでこの話はお終い。
なんだかモヤモヤしたお話で申し訳ないけどオチがないのだからしょうがない。
タイトルにあるとおり
「やよい」という言葉を聞くとどうしても思い出してしまうのだ。

あのとき、僕は何と言えば良かったのだろう?



では、また。



追伸

出演情報です。

東京ハートブレイカーズ
『フィッシュ・ストーリー』再演決定。
僕もちょこっとだけ出演させてもらえることになりました。

詳細はこちら。
http://www.tokyoheartbreakers.com/stage/fishstory2012/index.html