ども、父親が石原裕次郎のファンだった岡田達也です。



稽古が進んでいる。
(進んでなければ問題があるだろ)
顔合わせの日に全てのセットが建て込んである、という
我ら小劇場界では考えられない贅沢な状況だ。
それはとても幸せなことだが、言い換えれば
「早いトコ芝居を仕上げてくださいね」
的なプレッシャーを勝手に感じる苦しさもある。
しかし演出家の吉川さんの元
昨日から立ち稽古も始まり
順調に、しかも笑顔の絶えない現場になっている。

稽古の合間にシャドーボクシングを始めた。
いや、そんな、本気のものじゃなくて
かるーくジャブ、ストレート、それからキックをゆっくりと繰り返す。
正月休みで鈍ってしまった体を少しずつ起こしてやろうと思ったから。

すると……。

いきなり後ろから丸太のような足でローキックが飛んできた。

僕は格闘家ではないけど
一応舞台でアクション的なことは経験しているので
咄嗟の反応でそのローキックを受け流した。
振り返る。
今回のヒーロー役・金児憲史くんがニヤッとしながらこっちを見る。
「フッ……。岡田さん、キック(派)ですか?」
こちらもニヤリと顔がゆるむ。
「いや……。キックでもボクシングでも空手でもないです。強いていえば舞台アクション用かな」
横では芝居の稽古の最中だというのに話が弾んでしまった。
「僕はキックをやってたんですよ。だからミドルキックを見ればその人の経験値が分かるんですが……、やりますね」
「いやいや、所詮見せ物ですから」

こういう瞬間である。

それまではお互い顔も知らず
遙か彼方の大人の距離感でたち振る舞っていたのだけど
グッと何かが縮まるのだ。
もうお互いニヤニヤしっぱなしだ。
その後も前蹴りの裁き方について熱く語りあい
いつかマスボクシングをやる約束をして稽古に戻った。
(戻るとかじゃなくて稽古時間なんだから稽古してろ)

金児憲史。
さすがに石原軍団だけあって心も体も骨太な男だ。
どこかとぼけた味のあるところも憎めない。
ヒーローになれる男というのは何かしらの資質を持ってるもんだ、と感心させられる。
もしかすると将来的にはこの男が
先頭に立って炊き出しをしているかもしれない。

こいつは面白い芝居になりそうだ、と予感した立ち稽古初日。
よくぞローキックを繰り出してくれた。

今日は誰彼構わず蹴ってみようかな……。



では、また。