ども、最終回を迎えた岡田達也です。





翌日、すぐに事務所から台本を送ってもらい

僕はセリフを覚え始めた。

稽古は2週間しかない。

それまでに叩き入れていかなければ。


最も長く稽古できる人が3週間。

僕と小川江利子(OG)が客演中で2週間。

『四月になれば彼女は』に出演しているメンバーは1週間(!)
という超強行軍で行われた稽古は

まさにスクランブル状態だった。

いる人間

いない人間
AキャストもBキャストも入り交じり

老いも若きもごった煮状態
誰が本役で誰が代役かわからない中
全員で芝居を創っていった。
あんな経験、そうそうできるもんじゃない。


で。

その弊害というか……。
オマケというか……。

ある日、ラストシーンの稽古になった。


状況はこうだ。

上手でニュース番組をやっている柿本浩介と桜田よしの。
下手でその中継先にいる春山はるか。
番組の中で柿本ははるかに語りかける

「待っていたんです。
1年前から。
いや、3年前から。
いや、もっともっとずっと前から。
あなたに出会うために」

柿本とはるかは時空を越え舞台センターに向かって歩き出す。
感動のラストシーンである。


ところがその日はよしの役の岡田さつきが本番のため稽古場にいなかった。
Wキャストの津田匠子(OG)も早退していた。
誰かが代役をやらねばならない。
人がいないこの状況だ。
贅沢を言ってる場合じゃない。
年齢やらキャラクターに拘らなくてもいい。
普通にセリフが読める女性であれば誰がやってくれても問題は無かった。


ところが。


「あ、じゃあオレが代わりにやりますよ」
手を挙げたのは“たかやん”こと上川隆也大先輩(OB)である。
僕は慌てた。
「いや!いいっす!いいっす!先輩は引っ込んでてください!」
しかし、たかやん先輩は
「いいって!いいって!任せておけ!」
と胸を叩いている。
……おかしい。
何か、ある。
何か、企んでいる。
その場に防弾チョッキがあれば
僕は間違いなく着込んでいただろう。
が、そんなものは何処にもなかった。
後輩たちはヤンヤの歓声でたかやん先輩のよしのさんを待っている。


ラストシーンが始まった。
最後のセリフを口にした。
「あなたに出会うために」
僕はゆっくりと小川江利子演じるはるかの方を振り向いた。
舞台センターに向かって歩き出そうとした。

次の瞬間。

「ねえ、柿本さん!柿本さんってば!
あんた本番中にどこに行くのよ!」
僕は左腕を掴まれた。
「ねえ!ねえってば!
カメラはあっちなのよ!
あんたどこ見てんのよ!」
僕は必死で振り解こうとした。
「行かせるもんですか!」
よしのさんと柿本のプロレスが始まった。


結局、その日の稽古で僕ははるかに辿り着けなかった。

あの芝居、コメディーではないはずだけど……。



なーんて

今になって思い出せばそんな楽しい出来事もあったな。

そのときはただただ必死で

がむしゃらにやった公演だった。


記録には残っていないけど

もしもあの芝居を観た方の記憶に残っていればこれ幸い。





では、また。