ども、稽古最終日を迎える岡田達也です。






稽古終了後

すぐに帰宅する気力もなくボーッと椅子に座っていると電話が鳴った。


着信履歴を見る。


父親だ。


……。


30代の半ばで

生まれて初めて架かってきた親父からの電話の内容が

「金を貸してくれ」

だった苦い苦い経験を持つ僕は

出るか出まいかちょっとだけ躊躇した。


が。

そんな親父も今は更正して生きている。


おそらくは大丈夫だろう。


電話に出た。



「ああ、俺だけど……」


「どうしたの?」


「ちょっと腕時計が壊れてな」


「うん」


「ずーっと使ってたヤツが壊れてな」


「うん」


「新しいのを買おうかなと思ってな」


「うん」


「……」


「え?

買えばいいじゃない?」


「いや、そっちで何か無いかな?」


「ん?

腕時計くらい鳥取でも売ってるでしょ」


「そうなんだけど」


「……」


「そっちで何か無いかな?」


「そりゃ、いくらでもあるよ、腕時計くらい」


「うん。

どんなやつでもええんだ」


「は?

俺が買うの?」


「うん。

どんなのでもええけな」


「ちょっと待て。

どんなのでも良いって言われても……。

デザインだって丸も四角もあるし

ベルトだって革なのかーーー」


「あ、ベルトは黒の革がええな。

それから盤面はなるだけ派手な方がええな。

やっぱり金色がええかな。

数字は算用数字が見やすいかな

形は四角の方が高そうに見えるかもな」


「……なんでもよくねーじゃん」


「2万円くらいまででな」


「?」


「まあ、なるだけ早いほうがええけどな」



電話は切られた。



果たして僕はどうするのが正解なのだろう?


自腹を切って

注文通りの腕時計を購入しにいかなければならないのか?


しかし、親父の誕生日でもなければ結婚記念日でもない。

何故プレゼントせねばならぬのだ?


もう一度電話して「鳥取で買いなさい」と説得してみるべきなのか?



疲れていた僕は何も考えることができずに稽古場を後にした。






では、また。






『さよならノーチラス号』 音声ブログ

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