鳴り物入りで開催された米朝首脳会談、世界はその様子を期待と不安のうちに見守りました。トランプ大統領と金正恩委員長は何度も握手し、会話し、散歩するなど、親密さを強調しました。

私は、脚本に沿って、両トップが演じているようにしか見えず、南北首脳会談のような感動はありませんでした。しかし、金委員長にとっては、アメリカ大統領と対等に交渉する若い有能な指導者であることを印象付けることに成功し、トランプ大統領も、11月の中間選挙に向けて、今までの大統領にはできなかった首脳会談を実現したとアピールできたことは、双方一定のメリットがあったのかもしれません。

しかし、共同声明自体は、全く具体性に乏しいもので期待外れと多くの世界のメディアが報じました。私も多少の前進を期待しただけに残念に思っています。核と並んで重要視されたミサイルの問題についての言及は全くありませんでした。その中で、拉致問題にトランプ大統領が言及したことは、小さな前進と評価しています。

目標として明記することが期待された、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)は、「完全な非核化」という従来の表現にとどまりました。いつまでに、そして、どのような手順で非核化を実現するかということも共同声明は触れていません。

加えて具体的作業は、今後の交渉に委ねていますが、担当する責任者として、ポンペオ国務長官の名は明記されていたものの、北朝鮮側は「高官」としか記載されていないことも異様です。果たして、北朝鮮は本気で交渉する気があるのでしょうか。それとも何らかの国内事情があってのことなのでしょうか。

それでも、両トップが直接言葉を交わしたことは一歩前進です。お互い相手を汚い言葉で批判し、武力行使の可能性すら懸念されたのは、つい最近のことです。

大切なのはこれからです。トランプ大統領の言動はこれからもブレるでしょう。北朝鮮もしたたかに交渉するでしょう。確実にCVIDが達成されるための長く困難な道をこれから乗り越えていかなければなりません。

安易に制裁を緩めることなく、関係国が一致協力していく必要があります。そのために、日本外交の果たすべき役割は大きいのです。私も外務大臣経験者として、しっかり役割を果たしていきます。