憲法9条の現行の第1項、第2項をそのままにして、第3項を新たに加え、自衛隊の存在を憲法上明らかにするという、安倍総理の突然の提案が国会の内外で話題になっています。

まず、蓮舫代表をはじめとする我が党の質問に対して、「あれは、自民党総裁としての発言だから、国会で総理として答弁すべきではない」と述べられているのは、聞いていて恥ずかしくなります。

総理と総裁、立場が違えども、国会において、総理以外の立場での発言・言動についても説明する責任が、安倍さんには当然あります。それを答弁拒否しているというのは、国会審議を通じて国民に説明するという役割を総理自ら否定しているもので、極めて遺憾です。

さて、この発言、大きく言って、問題が3つあります。

第一に、第1項、第2項をそのままにして、第3項に自衛隊の存在を明記するということですが、現在、自衛隊が憲法違反だと言っている政党は、ごく一部に限られます。

もうすでに、自衛隊は自衛のための最小限度の実力組織であり、第2項の「戦力」に該当しないというのが、国会において確立した考えです。

それをあえて、第3項に明記しなければならないという、差し迫った理由はありません。憲法改正という大きなエネルギーを要する作業を、今、行わなければならない理由はないのです。

第二に、従来、国会の憲法調査会・審査会で自民党・公明党の幹部の皆さんが説明してきたように、「憲法改正は、野党第一党の民進党を巻き込んで合意形成し、国民投票にすべきだ」、「数の力で突っ走るというのは良くない」、「野党第一党の民進党が大事だ」というのと矛盾します。憲法について、今まで丁寧に議論してきた、長い国会におけるやり方を全く無視するものです。

第三に、自民党の中ですらほとんど議論されていない、第1項、第2項はそのままで、第3項を加えるという考え方。むしろ自民党の憲法改正草案では、第1項はいいけれども、第2項は改正し、限定のない集団的自衛権の行使ができるように改正すべきだというのが、従来の自民党の主張です。今回の安倍さんの主張は、限定されない集団的自衛権の行使は断念するということなのでしょうか。

結局は、憲法改正という実績をつくりたい。そして、その根本にあるのは、GHQに押し付けられた憲法であり、自分たちの手で、できれば全面的にだが、しかし難しければ、どこでもいいから改正したという実績を作りたいという、総理の誤った思い込みによるものです。

もっと実質的に意味のある憲法改正論議ということであれば、議論する余地はあるかと思いますが、単に改正のための改正というのは論外だと考えています。