米大統領選でバイデン氏が勝利を宣言し、新政権への移行作業がスタートしました。さっそく欧州各国首脳や菅首相との電話会談を行い、米メディアでは閣僚人事をめぐる報道も出始めましています。
 トランプ大統領は集計に不正があったとして、なおも敗北を認めていませんが、政権交代の流れをひっくり返すことは政治的にはきわめて困難な情勢に見えます。

 バイデン氏の勝利が確定したことで市場には安心感が広がり、米国のダウ平均株価は一時史上最高値を上回り、日経平均は29年ぶりの高値を更新、バブル崩壊後で初めて2万5000円台に乗せました。
 これにはバイデン氏の経済政策への期待も込められています。同氏の経済政策は、公共インフラや環境部門に4年で2兆㌦の大型投資、社会保障費の増加なども含めると10年間で10兆㌦の財政出動を行うなどが柱で、その財源として企業や富裕層を対象に4兆㌦増税を実施するとしています。

 株価が好調なのは喜ばしいことですが、肝心のバイデン氏の今後には不透明材料も多いのが現実です。私はそれを以下の「4つの懸念」にまとめています。
①コロナ感染の再拡大と景気の「二番底」
②増税策
③中国への対応
④バイデン氏の年齢・健康、リーダーシップ

 これについて、『マイナビニュース』の連載「コロナ禍を克服するためにできること」の第10回原稿として掲載しました。詳しくはこちらをお読みください。
https://news.mynavi.jp/article/covid-19-10/

 それにしても今回の大統領選では、集計をめぐる混乱・対立とメディアの報道ぶりには大きな問題を感じます。
 トランプ陣営が主張する「集計に不正があった」ということについては、該当する州当局は「証拠がない」「ばかげている」と反論しており、米メディアもまともに取り合っていません。
 しかし、さまざまな状況証拠的な情報や噂が飛び交っているのも事実です。その中にはデマも含まれていると見られますが、それでも実際、日本の常識からみると、いくつかの州の開票状況の発表の仕方が不自然に思えるケースがあったことも否めません。選挙の信頼性に関わることですから、「デマに過ぎない」「不正の証拠がない」で片づけるのではなく、当事者の州当局などは開票作業と集計についてもっと丁寧に説明すべきだと思います。
 (あるいは地元ではそれなりの情報公開をしているのかもしれませんが…)

 そもそも、コロナ感染対策とはいえ、郵便投票を認めたこと自体が疑問です。郵便投票では本人確認があいまいになる可能性がありますし、特に州によっては投票日が過ぎた後に到着した分まで認めたことなど、適切な処置だとは思えません。せめて「投票日前日必着」ぐらいにできなかったのでしょうか。
 この点は本来、トランプ派かどうかは関係ないことです。しかしほとんどのメディアがそのことについて指摘していません。

 米のメディアは、FOXニュースなど一部を除いてほとんどの新聞・テレビが「反トランプ」です。米国の選挙ではメディアが特定候補の支持を表明すること自体は普通に行われていますので、「バイデン支持」そのものには問題はありません。しかしそれでも今回の「反トランプ」は度を越していた印象です。日本から垣間見ていた限りですが、トランプ氏に対する激しい表現は「批判」を通り越して「攻撃」と言えるほどのレベルだと感じました。
 その一方で、バイデン氏のスキャンダル疑惑やマイナス材料についてはほとんど触れないような姿勢が目立っていました。そうしたメディアの姿勢が、米国社会の「分断」をさらに増幅させる要因になっているように思えます。
 たしかにトランプ大統領は乱暴な言動や人種差別的な発言など問題が多く、そこは厳しく批判されて当然なのですが、経済政策や外交などで評価すべき政策も少なくありません。メディアはそれらをもっと適切に報道し、批判すべきところは冷静に批判するという姿勢が必要です。

 前述の『マイナビニュース』でも書きましたが、日本の多くのメディアはそうした米国メディアの報道に直接間接に影響を受けているのが実情です。米国のニュースに接する際は、そうしたことを意識しながら見ていくのが賢明だと思います。