大阪経済大学が毎年開催している「北浜・実践経営塾」が今年度もスタートしました。
「北浜・実践経営塾」は、企業経営やビジネスに関心を持つ社会人を対象に年8回のペースで開いているもので、産業界の各分野で活躍する経営者をゲスト講師に招き、自社の経営戦略や現状について講演していただいています。毎回、ゲスト講師の豊富な経験談、時には業績悪化に直面して乗り越えた苦労や若き日の失敗談などもあり、リアルで説得力があります。
2010年度からスタートし、今年度で10年目を迎えましたが、おかげさまで好評をいただいています。参加者の皆さんはいつも熱心で、講演後の質問も活発で時間が足りないほどです。
私はスタート時からコーディネーターをつとめていますが、大学がこのようなイベントを継続して開催している例はあまりないのではないかと自負しています。

今年度第1回は、参天製薬代表取締役会長兼CEOの黒川明氏で、テーマは「眼科領域での治療貢献~参天製薬のグローバルでの挑戦~」でした。


参天製薬と言えば、テレビCMでもなじみがある目薬の会社として有名ですが、その特徴は徹底して眼科に特化していることです。創業は1890年(明治23年)。薬の町、大阪・道修町に隣接する北浜で、風邪薬を扱う個人商店としてスタートしましたが、9年後の1899年(明治32年)に「大学目薬」を発売し、以来、眼科薬が同社の主力となりました。「大学目薬」は120年経った現在に至るまで販売が続いており、日本で最大のロングセラー目薬となっています。
しかし実は、現在では一般向けの目薬以上に医療用眼科薬のウエートがはるかに大きくなっています。2019年3月の売上収益2340億円のうち、92%が医療用を占めるに至っているのです。同社のMRと呼ばれる営業マン約450人が全国1万4000人の眼科医をすべてカバーしているそうです。MR1人が担当する医師数は30人余りの計算ですが、黒川会長によると「業界では、MR1人当たり100~150人が普通」とのことで、同社のカバー体制がいかに手厚いかがわかります。
眼科医向けには狭い意味での営業活動にとどまらず、病気と治療に関する情報・資料の提供、や眼科医の育成、研究活動への支援などにも取り組んでいます。また理化学研究所とiPSを用いた共同研究を進めているのをはじめ、国内外の大学や研究機関、行政、他企業も含めた研究や連携も進めています。黒川会長は「この眼科に特化した専門性と組織力が、わが社の強み」と語っていました。
その結果、医療用眼科薬の市場では同社のシェアは54%を占めて国内トップとなっています。黒川会長によると「参天製薬をNO.1と評価している眼科医の割合は69.4%に達した。この評価は15年以上連続トップで、年々上昇している」そうです。このことは、シェアの数字以上に眼科医からの評価が高いことを示しているわけで、これが同社の強さの秘密と言えます。ただ黒川会長は同時に「この数字に満足してはいけない。逆に言えば、約30%の眼科医は他社をNo1に挙げているのであり、この点は課題だ」と、現状に満足せず、さらに強みを磨いていくことの重要性を強調していました。
同社のもう一つの特徴がグローバル化です。同社は現在、工場や研究所も含め海外に31の拠点を持ち、60以上の国・地域で製品を販売しています。海外売上比率は年々上昇し、現在では31%。海外の従業員数は2000人以上で、国内従業員数より多くなっているほどです。
特にこの数年の海外展開は急ピッチです。米国製薬大手メルクの眼科製品事業を2014年に買収したのをはじめ、この数年で欧米を中心に海外企業の買収、現地法人設立などを矢継ぎ早に行っています。グローバル展開は、今や同社の成長の原動力となっています。
ただ、これまでの海外展開には失敗もありました。米国には約20年前に1度進出したものの、数年で撤退した苦い過去があるのです。米国の市場規模は大きいのですが、その分ライバル企業も多いため競争が激しかったそうです。その教訓をもとに、他社との差別化を図って、その技術と組織力で米国市場で再挑戦に乗り出したわけです。
こうしたことを踏まえ、黒川会長は「企業買収には失敗もある。買収したあとが勝負どころ」と語っていました。そして同社が自らの特徴を生かしながら成長を続けていくには、「社員全員と理念についてディスカッションし、ビジョンや目標や理念を共有することが何よりも重要。それを通じて働きやすい企業風土を作り、グローバルに挑戦する人材を育てていく」と強調していました。


なお、「北浜・実践経営塾」の次回開催は7月24日で、毎月ほぼ1回のペースで開催します。今後の予定は下記URLをご参照ください。関西在住の方はふるってご参加ください。
https://www.osaka-ue.ac.jp/education/kitahama/jissen/
(参加申し込みもこのURLから)