だいぶ日が経ってしまいましたが、大阪経済大学「北浜・実践経営塾」では、ビルメンテナンスやセキュリティ・サービスを手がける日経サービスの嶋田有孝社長に「中小企業ゴキブリ論~変化の時代をしぶとく生きる~」とのテーマで講演していただきました。


「中小企業ゴキブリ論」とはユニークなテーマですが、嶋田社長によると、ゴキブリは①隙間(夜行性で昼間は家の中の狭い場所に隠れている)②スピード(秒速50㍍の速さで素早く動く)③敏感(全身に感覚器官をもち、外敵などの脅威を即座にキャッチする)――という3つの特徴が、太古の昔から生き残り、人間に怖がられる要因になっているとして、それを中小企業になぞらえれば、①隙間=ニッチな分野に特化して強みを磨く②スピード=素早く決定して即実行する③敏感=皆で情報を集め変化に敏感に対応する――ことによって大企業が怖がる存在となり生き残ることができるというのです。
嶋田社長はそれを実践してきたそうです。同社はかつて官庁依存中心から民間ビルへのシフトを図ったものの、新築ビルは受注競争が激しく当初は80連敗を喫するなど負け続けたそうです。そこで新築ビルをあきらめ既存ビルをターゲットにしましたが、既存ビルはすでにどこかのビル管理会社が入っているため、これもなかなか受注できない。このため既存ビルの中でも同業他社が嫌がる大学と病院に営業を絞り込みました。大学は夏休みなどがあり管理サービスの繁閑の差が大きく業務の効率があまりよくないそうで、病院はビル管理が最も難しいとされているそうです。そこを狙うのですから、まさに①のニッチです。
ただ同社がターゲットを絞ると言っても、どの大学も病院もすでに同業者が管理業務を請け負っているわけで、簡単には参入できません。そのため、「低価格と高品質なサービス提供」をセールスポイントにして、何年もかけて徐々に受注を増やしていきました。その結果、現在では関西の大学と病院の菅理業界ではトップクラスのシェアを獲得、同社の売上高はこの10年間で2.5倍の約100億円に達しました。
中小企業ゴキブリ論の第2のポイントであるスピードには、社内の改革で発揮されています。嶋田社長は「他社の成功事例から学んで政策を立案し実行のスピードを上げることが何よりも重要」と強調していました。そのためには「新幹線型組織」にすることが必要だと言います。新幹線は全車両にモーターがついていて、そのおかげで超高速が可能なのだそうです。しかし蒸気機関車は先頭車両が後続車両を引っ張るだけなのでスピードが遅い。つまり社長がワンマンでいくら会社全体を引っ張ろうとしてもスピ―ドは出ないが、新幹線型で社員一人一人の提案と知恵を活かせばスピードが速くなるというわけです。
第3のポイント、敏感については、社長から幹部、一般社員まで全社員がアンテナとなり顧客の声や社会の動きなどの情報を集めて行動することです。嶋田社長は「中小企業は人数が少なく組織も小さいので人事異動が少なく人間関係が固定化しがち。そのためセクショナリズムに陥りやすく、かえって大企業病が起こりやすい」と指摘します。それを防ぐため、同社では社内外の情報がタイムリーに吸い上げられ報告・活用できるような仕組みを作るとともに、部門外や業務外でもコミュニケーションを密にして風通しを良くする工夫を欠かさないことを重視しているそうです。
講演の最後に嶋田社長は「中小企業でも独自の力で得意な分野や狭い分野に集中すれば大企業に負けない経営ができる。その長期目標と分かりやすいストーリーを創って社員の力を結集して目標に挑み続ければ、必ず道は開ける」と強調していました。